
- 書名:『人はなぜ食を求めて旅に出るのか』
- 編著者:中村忠司
- 発行所:晃洋書房
- 発行年:2022年
本書の帯には<「食」は我々を遠い異国の地にまで引き寄せる力を持っている>とある。うーん、ロマンのある言葉だ。で、その「食」ってなんだ?というところの本である。
これは日本フードツーリズム学会、会員の日頃の研究成果をまとめたものだ。だから面白おかしくは書かれていない。ふむふむ(古っ)なるほどな、な内容がきっちり真面目にまとめられていて、その辺の商業コンサル屋さんが名刺代わりに書いているのとは一線を画す。権威主義ということではなく、執筆者のメインが観光や経営の大学の教授や准教授で占められている。集めたデータから導き出した分析した内容を優しく紐解いて書いてくれているのが本書だ。
わかったつもりになっている人も一度読んでおくことをお勧めする。
本書は食を主な動機とする旅行(フードツーリズム)の構造、動機、そして地域活性化への影響についての「入門書」と言える。特筆すべきはこの本が、ゲスト(旅行者)とホスト(受け入れ側)双方の視点から考察されているという点だ。
第I部ではゲスト側の視点を中心とした「食と旅」について、第II部では旅行者を迎え入れるホスト側の視点を中心とした「フードツーリズムと地域・産業」を具体的な事例とともに解説。
主な論点は、このそれぞれの側から視点で、食を通じた観光の本質と可能性を探求している点に集約される。
①ゲスト(旅行者)の視点:食に求める経験価値の解明。
この本ではまず、「どうして私たちは、わざわざ遠くまで美味しいものを食べに行きたくなるんだろう?」という、旅に出る人の素直な気持ちに寄り添って深く掘り下げていく。ただお腹を満たすだけでなく、その土地ならではの食体験を通して、「ここでしか味わえない感動」や「忘れられない思い出」を見つけたい!という心の動きを、優しく解き明かす。
単なる栄養補給やグルメ体験にとどまらず、その土地固有の食文化や歴史、生産背景に触れることで得られる非日常的な「経験価値」や「記憶」の創出に焦点を当て、旅行者の心理的側面を分析していく。
②ホスト(受け入れ地域)の視点:地域資源としての食の活用
旅人を迎える地域側の視点も大切にしている。その土地にしかない食や文化を「宝物」として大切に磨き上げ、訪れる人に喜んでもらうことで、地域がもっと元気になり、活気が生まれるようなアイデアがたくさん紹介されている。食を通じて、地域の人と旅人が心を通わせる、そんな温かい交流のヒントがある。
食を地域固有の重要な観光資源として捉え、どのように活用していくかを論じているのだが、地域独自の自然、歴史、生活文化と結びついた食体験をデザインすることで、その地域の個性を際立たせ、持続可能な観光地づくり(観光まちづくり)へ繋げる方策が提示されている。地域経済の活性化や、旅行者と住民の交流促進といった社会的意義も重要な論点だ。
③フードツーリズムを取り巻く現代的課題と将来展望
食と旅の関係は常に変化している。本書は、食と旅を取り巻く今の時代の変化にも目を向けている。例えば、コロナ禍のような大変な時期を経て、旅の形はどう変わっていくのか、地域にも地球にも優しい、持続可能な(ずっと続いていく)観光のあり方についても、触れている。
われわれはコロナ禍というビフォー、アフターを通して思い込んでしまって理由で行動していることはないだろうか?本書は、本当の理由、意外な理由を確認することで今をどうするか、未来をどう歩むかを考えるための「入門書」でもある。
物事、「分からないことを分かっていないと、分からないことは分かりません」なのである。