2019.01.21

ハムエッグの話

ハムエッグ

母方の祖父母の家は宮城県仙台市の中江という場所にあった。

この話の冒頭、自分がどこに住んでいたのか記憶が曖昧なのだが、仙台市内の蟹沢という場所か、福島のいわき市か須賀川市のどちらかだったと思う。

私が幼稚園に入る前のことだから、4歳ぐらいだろうか。
その頃は祖父母の家によく遊びに行っていた。

国道沿いの中江公園の向かいに建っていて、近所には親戚の家も集まっていた。祖母の本家の家も近くにあり、曾祖母さんも元気だった。
正月にはその家に集まって賑やかに宴会が繰り広げられていた。
その本家の叔父さんは恐らく土建屋か何かで、広い居間の座椅子は、自動車からもぎ取った自動車のシートだった。

庭には大きな鳥小屋があり、デカいインコや九官鳥が飼われていた。
その九官鳥はよく喋った。
私が行くと唐突に「ムカシムカシアルトコロニ、オジイサントオバアサンガ、ンギャー!!」と騒いでいた。
曾祖母さんは「カラスだ」と言い張っていた。

お正月のメインイベントは、たくさんの長いタコ糸の先に江戸時代の古銭が結ばれていて、それを叔父さんが束ねて持ち、親戚中の子供達が一本ずつえらんで引っ張るというゲームで、その中で大きな古銭を引っ張り上げた子供が大きなお年玉をもらえるというシステムだった。

親戚の叔父さん達は何人か居て、本家の叔父さんで土建屋の社長、その弟で同じく土建屋で、すこぶる酒癖の悪い叔父さん、タクシー運転手の叔父さん、そして妹の旦那さんで県庁職員の叔父さん(この人だけが唯一のエリート風)あとはよく憶えていない。

私の祖父母はとても温厚で凛とした人達だった。
祖父母の家は小さなだったが、小ぢんまりした庭に池があり、蘭鋳(ランチュウ)を飼っていた。昔はここで軒先で売るスタイルの天ぷら屋をやっていたらしく、台所がそのまま店になっていたと聞いた。

この家の風呂は薪で沸かす木桶の風呂で、庭で薪割りをして釜に焚べて湯を沸かしていた。
祖父母の家に遊びに行き、夕方になると薪割りや風呂焚きの仕事をさせてもらう事もよくあった。私はその仕事をさせてもらうことが楽しみで仕方なかった。なんだか少し大人になった気分になるのだ。
薪を焚べフーフーしながら湯を沸かし、一番風呂に入る祖父に風呂の外から湯加減を聞く瞬間がその仕事の醍醐味である。
「いい湯だよ」と言われたら、自分も素っ裸になって風呂に行き、一緒に湯船に浸かり、祖父が手ぬぐいに空気を含ませ湯船に浮かべ、てるてる坊主みたいな状態になったやつを人形に見立てて、ヘンテコな作り話をしてくれるのだ。
それが楽しみだった。
私も娘を寝かせるときに、よくベッドの中でデタラメな作り話をして笑わせていたが、そのルーツはここにある。

その祖父は私が幼稚園の年長さんの時にガンを患い天国に逝ってしまった。
一緒に過ごした時間は極端に短いけれど、祖父のことは鮮明に憶えている。
祖父は肉とイチジクと焼き芋が好きだった。
年末のお遊戯会で演じる劇の練習を始めた頃、祖父は大きな病院に入院した。
その頃の私は福島県の郡山市に住んでいたのだが、週末になると仙台の祖父母の家に通っていた。
最初のうちは祖父もまだ元気で、私が病院に行くと食堂に連れて行ってくれた。
私はその食堂で初めて「ハムエッグ」というものを食べた。
祖父が注文してくれたのだ。
もしかしたらまだ目玉焼きすら食べたことがなかった年齢かもしれない。

その時に食べたハムエッグは焼いたハムの上に卵を落として焼いた、ハムと卵が一体となったハムエッグだった。
その時代のハムエッグ(目玉焼き)は今みたいに半熟でオシャレなやつではなく、黄身まで固く焼かれたもので、ボソボソしていた。
最初に食べたハムエッグがそのスタイルだったので、私はハムエッグと言えば、それが正しいハムエッグであると思って生きてきた。
「生きてきた」なんて書くと大袈裟なのだが、そう信じていた。
なので自分で作るようになってからも、暫くはそうやって作っていた。
ハムエッグを作るたびに祖父の事を思い出す。
しかし、すこし大人になってホテルに泊まるようになったりして知見が広がってくると、様々なスタイルのハムエッグが存在することを知った。

最もエレガントなハムエッグは、ハムと卵を別々に調理して、温野菜等と美しくお皿に盛り付けられたものだろう。卵の黄身は黄色のまま低温でじっくりと半熟で焼かれた状態だ。
フライパンに蓋をして表面の膜が白くなるように蒸し焼きにするものや、両面をしっかり焼くものなど、目玉焼きもハムエッグもシンプルなのに卵の焼き方に人それぞれのこだわりがあるのも面白いところだ。

ここまでハムエッグのことを書いておいて言うのもアレなのだが、私が好きなのはベーコンエッグである。
これまで数多のベーコンエッグを作ってきて、私にとって今のところパーフェクトなベーコンエッグのレシピをご紹介したいと思う。

材料(あくまで使っているもので何でも良い)

  • 卵:2個
  • 市販の薄切りベーコンパック:5枚
  • オリーブオイル:小さじ1
  • 無塩バター:半かけ(約7グラム)
  • 塩:マルドンのシーソルト ひとつまみ
  • 胡椒:マコーミックのブラックペッパー ひとふり

道具

・蓋つきフライパン

作り方

  1. ベーコンを重ねて細切りにしておく
  2. フライパンでオリーブオイルとバターを中火で温めておく
  3. フライパンでベーコンを軽く炒めてフライパンに広げておく
  4. そこに卵二個を落とし、蓋をしておく
  5. 卵の黄身が薄っすらと白くなったら火を止める
  6. 30秒ほど置いて蓋を取り、お皿に盛り付け塩胡椒をしたら完成
  7. ※私はこれをそのまま炊きたてのごはんの上に乗せて少し醤油を垂らしてベーコンエッグ丼にするのが好きなのだ。

このベーコンエッグはベーコンを細切りにしておくことで、なにしろ食べやすくなるのが良い。

BGM : Long Gone / GUY

『耕作』『料理』『食す』という素朴でありながら洗練された大切な文化は、クリエイティブで多様性があり、未来へ紡ぐリレーのようなものだ。 風土に根付いた食文化から創造的な美食まで、そこには様々なストーリーがある。北大路魯山人は著書の味覚馬鹿で「これほど深い、これほどに知らねばならない味覚の世界のあることを銘記せよ」と説いた。『食の知』は、誰もが自由に手にして行動することが出来るべきだと私達は信じている。OPENSAUCEは、命の中心にある「食」を探求し、次世代へ正しく伝承することで、より豊かな未来を創造して行きたい。