2022.03.15

九州の「アラ」とクエ。
器も、縁ある出会いも、ご馳走に。

アラ(クエ)

 先日、福岡でとても美味しいアラをいただきました。日頃、金沢の市場に行っていても、なかなか目にすることができない食材ですので、伺う前からとても楽しみにしておりました。

造里でも、焼き物でも鍋でも何でも美味しくいただけるのですが、水揚量もそう多くなく、ましてや今回のように30キロ近い良型は、なかなか見ることもないので、存分に堪能できたことは嬉しい限りです。

 実はこのアラ、誤解されやすいのですが、一般的にはクエといわれる魚で、なぜか九州地方においてはアラと呼ばれているのです。なぜ誤解されやすいかというと、同じスズキ目ハタ科の魚でアラという正式な名前を持つ魚がいるからなのです。

その正式なアラは、私ども金沢『日本料理 銭屋』でも時折仕入れて使うことがあります。クエに負けず劣らずの高級魚で、しかも大きいものはそうそう水揚げされませんので、競りに登場すると仲買の間では取り合いになるのが常だとか。無論、こちらのアラも美味しいことは言うまでもありません。

人のご縁でいただくアラ料理

 本来の旅の目的は、ある方に会うために福岡まで出向いたのですが、その前夜、ご縁があり「粋房 太郎源(たろうげん)」さんに伺いました。

福岡 粋房「太郎源(たろうげん)」看板

紹介してくれたのはサンフランシスコ在住で、幾つものIT企業で活躍されてきたホカヤンこと外村仁さん。この御仁の食べることに関する知識、熱意そして執着心は尋常ではなく、会うたびに驚かされます。そのホカヤンに「博多に行くなら、ここ」とお薦めいただいたのです。

美味しかった料理のみならず、店全体に込められたご主人の心遣いがとても印象的でしたが、次から次とご用意される秘蔵の器が素晴らしく、そしてそれらの由来をご説明くださるご主人の表情が何とも嬉しそうで、それらがまるで別のご馳走のようでした。

 今回いただいた絶品のアラを味わうために必要だったのは料理人の技術だけではなく、人と人とのご縁であったことを忘れるわけにはいきません。

粋房「太郎源」ご主人と

編集部:本稿は産経新聞「和食伝導」に寄稿された内容を、編集部により一部説明などを加筆して掲載しています。※アイキャッチのアラ(クエ)の写真はイメージです。

石川県金沢市「日本料理 銭屋」の二代目主人。
株式会社OPENSAUCE取締役