2021.06.16

ぐりとぐら【私の食のオススメ本】

  • 書名:ぐりとぐら
  • 著者:中川李枝子(文) 大村百合子(絵)
  • 発行所:福音館書店
  • 発行年:1963年発表 1967年発行

なぜ野ネズミのぐりとぐらはこの世でいちばん「りょうりが好き」なのだろうか。

「なかがわりえこ」と「おおむらゆりこ」は姉妹だ。昭和10年生まれと15年生まれ。二人は小学時代に軍国主義教育と、敗戦後に黒塗り教科書・民主主義教育の両方を経験した第二次大戦の記憶を持つ最後の世代。

いわゆる焼け跡世代。その時代の人間としては高学歴な女性たちだが、家柄的なものが良かったとしても、幼少期に食べ物が豊富であったとは思えない。

勝手な想像をすると、森でどんぐりを拾い「砂糖で煮ようね」というのも、大きなをみつけ、「ばんまで たべても、まだ のこるぐらいの『カステラ』」を作ろうと思うのは、その時代に育ったせいではないだろうか。

卵が持ち帰れず、家から鍋を持ってきて森の中でカステラを作り始めると、森中の動物たちが集まってくる。争うことなくみんなにご馳走した後に残った卵のから。

卵の殻は運搬車(自動車か?)になって鍋や荷物を運んでいくというオチ。自動車はともかく、エコである。みんな仲良く分け合って、ゴミは出さない。2015年のシリーズ累計発行部数は427万部だが2018年には2630万部になった。

親が与えているのだろうが、子供たちも必要とし続けているのだ。

そしてこの絵本は、カステラが卵と小麦粉、バター、牛乳、お砂糖…などの材料をフライパンで調理するという、料理に興味を持つ前の子供たちが初めて出会うレシピ本でもある。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。