2021.01.08

彼女のこんだて帖【私の食のオススメ本】

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  • 書名:彼女のこんだて帖
  • 著者:角田光代
  • 発行所:ベターホーム出版局
  • 発行年:2006年

角田光代にはサラリーマンの父親と小さなパン屋をのような店を営む母がいた。20歳で独立するまで母の聖域である台所に入ったことがなかった。全ての食事は食卓に忙しい母が運び、妹と自分の毎日の弁当も用意された。だからその台所には「料理の素」がそろっていて、台所に消えた母が瞬時にその素をふりかけてできていたと角田光代は20歳で家をでるまで信じていたらしい。

そんな直木賞作家が料理に目覚めたのは26歳で、若いデビュー後のスランプに悩む時期だった。突如として料理という逃げ場を見つけたのだろう。
そのせいか、野間文芸賞、坪田譲治賞をとり、2005年には「対岸の彼女」で直木賞をとった。

婦人公論賞をとった「空中庭園」では秘密を持たないことをルールとする妻と娘と夫、そしてその愛人、それぞれの立場で一つの家庭と人間関係を見させられる読者になってしまったが、このレシピ本(というのか)ではそれぞれの章で違う女性(うち男性が二人)たちがその時に対処のために「料理」を介在させる。

『泣きたい夜はラム』の章では、4年間毎週末をともにした男をホームで見送った別れのその夜、主人公は山形のラム肉を通販で購入し、ひとりになった翌週末、男の代わりに届いたラム肉でハーブ焼きを作り始める。こんな短編とレシピのセットになった本なのである。

こんなふうに「あー、あるある」と言いながらレシピを見てお腹を鳴らす女性がぜったいいるだろうと思う。

著者はきっと少しは頭の体操的に楽しんで書いたのではなかろうか。

レシピ部分は、角田光代の母が突然通い始めてお節まで作るようになったベターホーム協会が担当しているのだが、記載の仕方があまりにも何事もない幸せなレシピなので、そのギャップで短編がますます心に刺さって来る。ただ、レシピページの端に添えられた主人公の言葉が切なさを繋いではいるのだが。

『恋のさなかの中華ちまき』では「・・一晩たって冷めても別のおいしさがあり冷凍保存だってできる。そんな恋があってもいいか・・」とテレビのドラマの脚本並みに恥ずかしさはあるが、こっそり見たいドラマのようだ。

ストライキ中のミートボールシチュウ、かぼちゃのなかの金色の時間、ピザという特効薬、なけなしの松茸ごはん、恋するスノーパフ豚柳川できみに会う・・というタイトルで食欲がわくわけではないが、短編を読んでレシピを見るとお腹が鳴る仕掛けがこの本にはある。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。

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