2019.02.03

単独農作業には妄想とSNSが効く

農業用軽トラ

先週、中能登の圃場(これ”ほじょう”と読む。田んぼや畑を表す農家用語)で排水路を築くために、半日ほどスコップと鍬(くわ)で溝を掘り続けた。なんせ20年ほど耕作放棄地だったので排水路が土で埋まっていて排水が悪く、作物が育ちにくいのである。

北陸の束の間の晴れ間をぬっての作業なので、鍬を振り下ろすたびに湿った土が自分の身に降りかかる。作業が終わる頃には匍匐前進したかと思うほど服が泥だらけになった。頭の中ではなぜか「ブラックホークダウン!ブラックホークダウン!」とリフレインしていて、自分が映画「ブラックホーク・ダウン」に出演しているタフな兵士になった気分を味わえた。

そう、農作業には妄想力があると、とてもはかどることをここで付け加えておく。

作業を終え愛車の軽トラで帰路につく。人にもよるが、僕にとっては程よく疲れた後の夕暮れドライブは心地よい時間だ。サーファーが波乗り後に気だるい体を車に押し込み、夕暮れの海岸線をドライブするのと一緒だ。繰り返しになるが、農作業には妄想力である。金沢にある事務所まで1時間は掛かるので、途中のコンビニでホットコーヒーLサイズを購入。

コーヒーを飲みながら、コンビニの駐車場で、先ほどインスタにUPした排水路構築動画の「いいね」数をニヤニヤしながら数えていた。そうそう、単独の農作業はとても寂しい。オフィスや街中での単独作業と違って、ほとんどの場合周りに人はいない。そこで、承認欲求を満たすために「どや!俺農作業頑張ってるぜ!」とSNSにUPすると、気持ちを奮い立たすことができるので、全国のみんなも真似してみて欲しい。

そこへスマホに「もしかして今、羽咋市のコンビニに居ます?」とメッセージ受信。周りを見回すと、そこにはイケてる外車を乗りこなすナウでヤングな黒光りトレーニングジムオーナーの友人が立っている。数年ぶりに偶然会った。爽やかに笑いながら僕に近づいてくる。泥だらけで軽トラに乗る僕を見て「ムッチさん(僕のこと)、すっかり農家じゃないすか!?」と言われ、ブラックホークダウンではなく農家として承認されていることに、なんだか照れ臭さを覚えた。「最近、SNSのUPもほぼ畑のことだから、嫁(僕の友人)とも、”自分の会社潰して農家に転身したんだ”って話してたんすよ」と、追加でとても失礼な承認を受ける。

それでも、効き目は短いが、寂しい単独農作業には妄想とSNSが効く。

農業以外の自分の会社もうまくいっていることを最後に付け加えておく(笑)。

食べるための争いも経てきた人類が、やがて種から農作物をつくり、農作物を飼料とした畜産も生み出しました。その後、世界人口の増加に合わせるかのように農業技術は進化を遂げ、今日まで世界の胃袋を満たしてきました。一方で、耕作放棄地、農業従事者の高齢化、フードロス、フードマイレージ、有り余る農作物の国家間の押しつけ合いなど、様々な問題もあるのが現実です。OPENSAUCEの『KNOWCH』プロジェクトでは、問題に農家の視点から取り組みます。