2021.02.04

美食の社会史【私の食のオススメ本】

  • 書名:美食の社会史
  • 著者:北山晴一
  • 発行所:朝日新聞社
  • 発行年:1991年

フランスと食とファッションに関わる人は読むべき本。特に若いソムリエには必須の本(だと個人的には思う)。

北山晴一は社会学者、歴史学者、社会運動家で、東大文学部、大学院、そしてクレルモン・フェラン大学で歴史家ミシュレ研究の第一人者ポール・ヴィアラネー教授に師事した。1987年までパリ第3大学専任講師をし帰国。

よって、この本は少々アカデミックに「フランス人はなぜ食べるのか」を読み解く内容になっている。しかし、その視点と語り口は、さすがパリ仕込みで軽妙。

フランスはフランス革命によって、支配層のなかでのみ発達していたの食の技術や技術者が解放されたため、食の伝統が庶民へと一気になだれこみ、急激な食文化が発達した。対して日本では戊辰戦争によって、日本料理は旧支配層とともに断絶した。

明治維新で数えるほどしか日本料理を継承する店がなくなったが、現在の日本料理店の復興はある意味奇跡かもしれない。バブルのおかげもあったかもしれない。しかし、一般の家の食事にはどう繋がっているのだろう。そんなことを考えながらフランスの歴史とフランスの究極の美食大食粗食から消費文明とは何かを読み取る。

面白いのは1800年ころ、帝政から王政復古期の近代フランス料理黄金時代のメニューからの分析。

肉体労働者の日給1フランの時代、レストラン「ヴェリー」の春雨のスープが12スー(1フランは20スー)だった。田舎から出てきた青年がヴァレリーで簡単な食事をして50フランを要求され、一月の生活費をなくす「幻滅」という小説にも描かれた。
と、さすがフランス文学者、バルザックの小説の一文とも対応させてくる。

美食学者グリモ。都市型食生活のモデル。パリ市民のメニュー。葡萄酒の風土。民衆と酒場。ブリア・サヴァランとレストラトゥール。革命左派ジャコバン党はどこで食事をしたか。外食人口の増加。オーギュスト・エスコフィエ。料理芸術。ロシェ・ド・カンカル。エミール・ゾラとビュッフェ。パリ・レストラン興亡。アルコールの効用・・気になるワードは無限。

この本を読んで博学をひけらかすのも良いけれど(少なくとも知らない人に知識をあげられる)、食べるとは何かを考えるきっかけになれば良い。

本には答えと知識が書いてあるのではなく、いま何を考えるべきかが書いてある。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。