- 書名:米蔵夫婦のレシピ帳(こめぐらふうふのれしぴちょう)
- 著者:片山ユキヲ
- 発行所:小学館
- 発行年:2023年
亡くなった人が書いていた「レシピ帳」は本人の写真やビデオ映像よりもその人の生きていた証のようにも思え、そのレシピ帳がそこにある限り、その人がそこにいるように感じるかもしれない。細々と書き込みが加えられていたら尚更だ。
妻が遺したレシピ帳によるグルメ復活劇!と紹介されるこの漫画は、主人公である一人の気難しく人付き合いが苦手な時代小説家が若い妻を病で亡くしたところから始まる。
料理をまったくしない夫を案じて、入院中の妻がつくった手書きの「レシピ帳」が残される。生きる気力を無くし食事もしていなかった主人公は「作品を完成させる」という妻との約束を果たすべく、妻の残したレシピ帳で妻の料理を作って食べることで復活し悲しみの底から甦ろうとする。
なんだこれは!料理による「喪の仕事」ではないか!
たしかに担当編集者も「”グリーフケア(悲嘆からの復活)読本”としても是非お読み頂きたく思っております」と書いている。
第2巻の冒頭では、妻の実家に飾ってあったカサゴの魚拓が、妻が銛(もり)で獲ってきたものだと知り驚く。自分の知らない妻がいたのだ。主人公はカサゴを購入し、妻の「刺身しょうゆでつくるお煮付け」というレシピを見ながら初めての煮魚に挑戦し、そのおいしさに屈託のない笑顔も取り戻す。亡き妻の料理を作って食べるという行為で夫は喪失を埋めていく。
やっぱり「喪の仕事」じゃん。
ああ、レシピってすごい。誰かを思って書かれたレシピは尊い。
そしてここから、主人公の自分の知らない妻をめぐるレシピとグルメの旅が始まるのである。
補足:
この漫画には「オッサン読者の俺が泣いたら、オッサン主人公も泣いていた。オッサンを泣かせるレシピがここにある。」というケンドーコバヤシ氏のコメントがある。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。