2019.01.10

ポルシェより、ランボルギーニより、俺に買ってよトラクター♪

畑を耕すトラクター

言わずもがな、2018年の暑さは最悪だった。

ぶったるんだ僕のボディー、じわりじわりと蓄積される疲労感に、「80年代生まれHIPHOP育ちの根性を見せてやる」という、現代の若者には到底受け入れられない精神論で農業に挑んだのが今年の猛暑だった。

最初にお借りすることになった農地は広さ4a(130坪くらい)。元水田だった休耕田を、まずは耕すことから始めた。

5月、6月、7月とグングンと上昇する気温。ついには、7月には地面からの放射熱と相まって、地表近くに吊るした温度計は50℃を指していた。

空気が揺らぐなか、鍬(クワ)を持った中年男がカラカラに乾燥しきった田んぼを耕すのである。全身の穴という穴から汗があふれ出る。ご近所の農家さんからは「あんちゃん、あんまり無理したらダメよ」というお声もいただく。繰り返すが、80年代生まれ独特の精神構造を持つ僕には、こういった声は何故か声援に聞こえてしまう。実直に2時間ほど鍬を振り下ろし続けた。

「自分に勝つんだ。これが農業なんだ。」と、自分に言い聞かせて。

努力の甲斐あり、4分の1の面積が終わった。

さすがにこのまま残りを続けられては、「もしかしたらワシの土地で鍬を持ったまま中年男が、熱中症で死んでしまうかもしれない」と心配になったのであろう。見かねた地権者のベテラン農家さん(以下、ベテラン農家さん)からこう一言言われる。

「あなたには、トラクターを使うプランはないのですか?」

今だったら信じられないのだが、当時の僕は「こんな小さいところでトラクターって使っていいの?」と遠慮してしまった。緊張の糸が途切れたせいもあり、水場で休憩をとっていると、ベテラン農家さんが乗ったトラクターがエンジン音を轟かせ目の前を通りすぎていく。

「これが農業だよ!」と言わんばかりにロータリーをグルングルン回すトラクターが、先ほどまで鍬を振り続けた場所も含めて、一気に耕していく。40年選手のベテラン農家さんの手にかかれば、狙った位置をセンチ単位でトラクタを合わせてくる。僕の鍬作業より正確に。大胆且つ丁寧に。見事だ。わずか20分ほどで、全面積を綺麗に耕してしまった。

何も言わずにトラクターを納屋へ片付けるベテラン農家さん。

それを見つめる僕。

「本気で農業やるつもりだったら、無駄な労力を費やすことはするなよ。気合いや根性では続かないから。」

と言われたような気がして、すごく恥ずかしかった。

この日を境に、僕は「ポルシェより、ランボルギーニより、クボタのトラクターがかっこいい!欲しい!」と本気で思うようになってしまった。クボタに惹かれる理由は、ベテラン農家さんが乗っていたからに他ならない。

余談だが、ランボルギーニ社は元々(今も?)トラクターメーカーであることも、ここに付け加えておく。

今もなお、合コンの自己紹介で「農家です」と言うと、”汚れそう”という女性陣からの声が1位なのだそうだ。最先端農家に至っては、極端に言うと「気付いたら、今年一年間、長靴を一度も履かなかった(履く必要が無いくらい汚れ作業がなかった)」という強者もいるくらいである。

気合いや根性よりトラクターである。

食べるための争いも経てきた人類が、やがて種から農作物をつくり、農作物を飼料とした畜産も生み出しました。その後、世界人口の増加に合わせるかのように農業技術は進化を遂げ、今日まで世界の胃袋を満たしてきました。一方で、耕作放棄地、農業従事者の高齢化、フードロス、フードマイレージ、有り余る農作物の国家間の押しつけ合いなど、様々な問題もあるのが現実です。OPENSAUCEの『KNOWCH』プロジェクトでは、問題に農家の視点から取り組みます。