2022.02.11

父から受け継いだ「鮑ステーキ」

金沢銭屋のアワビステーキ

私が2代目を務める金沢の『日本料理 銭屋』は、2022年、今年の10月で創業52年を迎えます。両親がカウンター10席の店から始めたのですが、その後カウンター14席と個室1部屋の店舗に移り、1981年に現在の個室6部屋、カウンター7席の店舗になりました。創業者である父は1991年に他界しておりますが、母は大女将として今だに現役で家業に勤しんでおります。

さすがに創業時のお得意様たちのお姿を見ることは少なくなりました。それでも40年以上に渡りご贔屓にしていただいているお客様はまだいらっしゃいますし、親子孫3代に渡ってご贔屓いただいているお囃子の御師匠さん方の存在も有り難い限りです。

今の銭屋でご用意している献立の殆どは、私達料理人にお任せいただいたコース料理ですが、古くからのお得意様たちは、それこそ父の代からの定番の献立をご所望されることも多いものです。正直言って、ちょっと古く感じて、仕込みすらあまり気乗りしない時もあるのですが、料理をお出しした時や召し上がっていただいた時の嬉しそうな表情を拝見すると、ご用意して良かったなと思うこともしばしばです。

シグネチャー料理とレシピ

父の代から微調整を重ねていながらも本質的に変えようとしていない料理は「おせち料理」と「鮑ステーキ」です。おせち料理は1年に一度しか仕込まない料理ですので、10年修業しても10回しか経験できません。ですから、今後も大きく変えるつもりはありません。

「鮑ステーキ」は、父の頃とは産地がずいぶん変わってしまったので、当然火の入れ方も変える必要がありました。同じ黒鮑でも産地が変わると味の入り方がずいぶんと違うのです。志摩観光ホテルの元総料理長の高橋シェフからは「産地の違う鮑を同じ鍋で仕込むべきではない」と教えていただきましたが、まさにその通りでした。

トロワグロの「サーモンオゼイユ」のように、シェフが代わっても同じレシピで変わらず提供する料理こそシグネチャー料理と呼ばれたいものです。


編集部:本稿は産経新聞「和食伝導」に寄稿された内容を、編集部により一部説明を加筆して掲載しています。

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石川県金沢市「日本料理 銭屋」の二代目主人。
株式会社OPENSAUCE取締役