最近、司法書士の先生と連絡を取り合うことが増えた。
以前Riffにも書いたけど、耕作放棄地の所有者を調べるために、登記簿を取得してもらうことが多いからだ。他業務でお忙しいにもかかわらず、毎回快く受けていただく姿勢には頭が下がる。先生本当にありがとうございます!
そんなお忙しい司法書士の先生、重要な業務の一つに「後見人制度」がある。この「後見人」とは、心神喪失の常況にある方(例えば身寄りの無い認知症のご老人)などの監護・代理・財産管理などをするように定められた人のことを言います。
被後見人(依頼者)が亡くなられた後、後見人である司法書士の方々が最も処分に困る財産が耕作放棄地だそうだ。そもそも後見人制度を利用するくらいなので、相続人が居ない。相続人の代わりに後見人である司法書士が残余財産の処分を行うことになるが、宅地などと違って地目が農地の不動産は、農地法上、買い手が農家に限定されてしまいます。しかも、地域の農地を監督する農業委員会の許可を得なければならない。先生は言わなかったが、農地取得を体験中の僕ならわかる。これは相当面倒くさい仕事だと思う。
ある日先生との雑談の中で、耕作放棄地問題につながる、よりリアルなエピソードを聞くことができた。(もちろん守秘義務は遵守の上で)それは、石川県内の農地を大量に所有されていた元農家さんが亡くなったときの話。
残余財産のうち大半が農地だったので、先生はその農地があるエリアで農業を営む農地所有適格法人(旧農業法人)の代表者に相談、購入していただくことになった。耕作放棄地の為、そこで農業を始めるには手間がかかるのにも関わらず、購入を快諾してくれて感謝したという。
次に、農業委員会の窓口業務を担っている市町村役場の(おそらく)農林課に、農地売買の手続きに赴くのだが、ここで問題が発生する。窓口業務を行う職員さんから、こう言われたそう。
「お話を聞くところ、現在当該農地は耕作放棄状態で雑草が伸びっぱなし、何も作っていない。せめて雑草を刈って、畝(うね)を立ててもらわないと農地としての売買の手続きは進められません。」
僕は耳を疑った。農地法上、「農地とは、耕作に供される土地のこと」とはなっているが、農家でもない後見人である司法書士に”畝を立てろ”と言わざるを得ないのだろうか?
「ご経験上、他の市町村役場も同じ対応なのですか?」と伺ったところ、
「石川県では、現在のところ◯◯市だけです。」とのこと。
とどのつまり、
「耕すことができないのに農地だけは持っているご老人や相続人」
「耕したいのに農地が見つからない若者」
この両者を繋げる仕組みが、いま現在無いに等しい。
結局、先生は自分ではどうすることもできない(そりゃそうだ。草刈りや、ましてや畝立てなんて。笑)ので、土建会社に草刈りと畝立て業務の見積もりを取ったそう。見積もりを依頼された土建会社も、できればやりたくない(経験がない)仕事なのか、高額な見積もりが出てきたらしい。
この経費は残余財産の中から支払うので、先生としては高額な値段でも依頼することは可能だったが、善意から依頼はしなかったという。その良心が届いたのか、困り果てた先生の話を聞きつけた、買い手である農地所有適格法人の代表者が、善意からボランティアで草刈り、畝立て(何も栽培してないのに!)を引き受けてくれたそうだ。
こんなことが日本全国で起こっているのかな…そりゃ耕作放棄地も増えちゃうよ。スムーズに次の耕作者に引き継げる仕組みが必要だと思う。
KNOWCHは事業を進めるにあたって、”農の課題を可視化する”をテーマの1つとしています。無数に散らばる農の課題を、たとえ小さなものでも、1つ1つリアルな情報発信をすることが、僕の考える”可視化”だと思っています。
食べるための争いも経てきた人類が、やがて種から農作物をつくり、農作物を飼料とした畜産も生み出しました。その後、世界人口の増加に合わせるかのように農業技術は進化を遂げ、今日まで世界の胃袋を満たしてきました。一方で、耕作放棄地、農業従事者の高齢化、フードロス、フードマイレージ、有り余る農作物の国家間の押しつけ合いなど、様々な問題もあるのが現実です。OPENSAUCEの『KNOWCH』プロジェクトでは、問題に農家の視点から取り組みます。