2021.01.20

中原淳一の幸せな食卓【私の食のオススメ本】

  • 書名:中原淳一の幸せな食卓
  • 著者:中原淳一
  • 発行所:集英社
  • 発行年:2003年

この文庫本はイラストレーター、編集者、人形作家、インテリアデザイナーなど、幅広く活躍し戦後のモダンライフと女性誌の基礎を築いた中原淳一が創刊した次の雑誌に掲載された料理の数々から編集されたものだ。

少女雑誌の原点といわれる昭和22年〜27年の「ひまわり」、昭和21年〜35年の「それいゆ」、昭和29年〜35年の「ジュニアそれいゆ」、ミセス向けの昭和45年〜46年の「女の部屋」の中から中原の次男、中原蒼二が監修している。

昭和のモダンなレトロ感が好きな現代の若い方々にとっては楽しい1冊であることは間違いない。2004年ごろにオープンした東京広尾商店街にオープンし、2017年、恵比寿ガーデンヒルズ入口に移転した中原淳一ショップ『それいゆ』はいまでも人気だ。

終戦の匂いが残る昭和22年の料理の一つに「マカロニビーフ」というのがある。牛肉と玉ねぎを炒めてバターと「メリケン粉」でとろみをつけ、そこに茹でたマカロニを投入するのだが、マカロニ2、30本の代わりに「うどん1把」でも良いとある。

時代を感じるが、編集者・中原の「女性が戦争で失ったもの」を取り戻させようと、なんとかモダンな世界を食卓に取り入れることで、暗い時代を払拭してほしいという意志が自分には見えてくる。重くなくとても軽やかに。

昭和23年のお菓子に「ブランマンジー」がある。今ではもう少しフランス語に近いブラン・マンジェというもので、本来はアーモンドミルクを使うのだが、今の日本では砂糖、洋酒、生クリーム、バニラなどで風味をつけた牛乳を、ゼラチンで固めたレシピが多い。

しかしここではコーンスターチと砂糖と牛乳と香料だけである。

編集者たちは一生懸命、洋菓子のレシピから家庭で作れるように思案したのだろう。

さらに22年の記事では「乙女のパーティーのために」と称して、剥いたりんごや梨でお皿をマーガッレトの花びらのようにしたもの。カナペエ(=カナッペ)もあり、薄切りパンにバターを塗って「ご馳走」をのせて・・とある。そのご馳走は「ほうれん草の裏ごしに塩胡椒、鮭缶かハム、茹で卵の裏ごし」で彩を、という内容が書かれている。

戦後2年にして「女子会」を提唱したのだ。

こんな料理を当時の人たちが本当に作ったのであろうか?ほんの一部の人たちであることは確かだ。しかし、明らかに多くの女性たちが料理で夢を見ることができたのではないだろうか。

タイトルの「幸せな食卓」にも深い意味を感じる。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。