- 書名 キッチン
- 著者 吉本ばなな(よしもとばなな)
- 発行所 角川文庫(初版 福武書店)
- 発行年 1998年(1988年)
「私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。」から始まるこの小説は、学生である主人公が料理家のアシスタントになるというのに、これといって料理を美味しそうに見せる文章はいっさい出てこない。
北野武が暴力的なもの以外のベッドシーンを映画に持ち込まないのと同じ気がする。伊集院静が「食べること」はどう書いても品がなくなる、と言ったことにも近いかもしれない。
それでも、どんな人でもどんな家族の中心にも台所がある。その関係が危うくとも「食」でつながることの意味は深く、家ではなく「ああ、あの台所に帰りたい」という感じが滲んでいる。吉本ばななは23歳で海燕新人文学賞を受賞した。
冒頭に「台所」とありながらタイトルは「キッチン」とあるのが80年代の匂いがする。吉本ばなながバラエティ番組で自宅料理を披露していて驚いた。そこにあったペッパーミル&ソルトミルが自分と同じ廉価なものだったのでさらに驚いた。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。