2024.11.18

THE PASTRY COLLECTION
日本人が知らない世界の郷土菓子をめぐる旅

  • 書名:THE PASTRY COLLECTION
    日本人が知らない世界の郷土菓子をめぐる旅
  • 著者:郷土菓子研究社+林 周作
  • 発行所:KADOKAWA
  • 発行年:2014年

この本をめくっていると、日本人がいちばん世界中のお菓子を食べているのではなかろうか、などと思ったりしていたことが大間違いだということがわかってくる。

もともとブログで発表されたものだったらしい。2010年に当時パン屋の職人だった著者は、3か月間ヨーロッパ13カ国の郷土菓子を調べ歩き、翌年にはフランスに渡り有名パティスリーに勤務し、さらに翌年フランスから自転車で日本に向けユーラシア大陸各国の郷土菓子研究の旅に出たという。

WEBブログの方にはヤバイ国境越えや野宿の2年行脚(実際は誰かの家に泊めてもらえた)を目指したことが書かれているらしい。らしい、というのはブログのフォロワーの投稿にあったからだ。

最終的には16カ国を旅して書いた郷土菓子研究社の世界のお菓子をめぐる旅の話だ。(現在は36カ国へ行っているらしい)

「郷土菓子研究社の世界のお菓子をめぐる旅 レシピ付き!」とあるが写真のないテキストのレシピが16。各国の終わりに代表する菓子のレシピが一つずつ書いてある。

この本はレシピ本でも紀行文でもない。左ページにはお店の女性や職人、ファミリーがホールのお菓子を手に持ち笑顔で写っている。ページにはその店と菓子の解説が小さく掲載されている。

例えばこんな感じである。
アダルトプリン(これは著者によるタイトル)『ロジャータ』
「クロアチア南部、ドゥブロヴニクのローズリキュール”Rozalin”(ロザリン)の華やかに香るプリン。見た目はプリンにそっくりだが、アルコールの少し残るプリン生地からはローズの甘く、しっとりと大人な香りが漂う。他にもサクランボのリキュール、マラスキーノやラム酒が使われることもある。菓子屋ではなくカフェやレストランで供されることが多い」

そして右のページには、もともと個人のブログだったのだが、コラムニスト、ピート・ハミルの「ニューヨーク・スケッチブック」を気取ったような創作話が載っている。著者によるものである。ちょっと鼻につく人もいるだろうが、洒落た文章を書くね、というくらいに思って読んでほしい。

つまり、この本は世界のお菓子の解説書が主というわけでもなく、世界各国各地には、未だその地に眠っているお菓子があるはずだ!と、そんな菓子を発掘するべく旅に出た男の徒然日記である。

各国の冒頭にはミニ「地球の歩き方」的な説明もある。お菓子と旅と妄想的な文章遊びが好きな方にはお勧めしたい。

掲載されている世界の菓子は以下の通り(カタカナの羅列になってしまった。書き出すのに一苦労したのはいうまでもない)

[掲載の郷土菓子]
フランス>クッサン ドゥ リヨン/タルト タタン/パテ オ ブリュンヌ/ガレット デロワ/ベラヴェッカ/カヌレ/トゥーロン/ピチヴィエ <イタリア>/ガトーバスク/パスティス/ヌガー ドゥ トゥール/カッサータ/ブッチェッラート/ババ/スフォリアテッレ <スペイン>ボルヴォロン/クレマ カタラナ/タルタ デ サンディアゴ <ポルトガル>パンデロー/パステル デナタ/ケイジャーダ デ シントラ <オーストリア>ザッハートルテ/カーディナル シュニッテン <スイス>エンガディナー ヌストルテ/バーズラー レッカリー/ツガーキルシュトルテ <ドイツ>ケーゼクーヘン/クワルク シュトゥルーデル/シュヴァルツヴェルダーキルシュ トルテ/モーンクーヘン <クロアチア>クレムシュ ニッタ/ロジャータ/トウタマカラナ <ボスニア・ヘルツェゴビナ>ハルバ/バクラヴァ/トゥファ ヒエ/フルマシッツァ <セルビア・ルーマニア>ジート/パパナシ/クルト シュカラーチ <ウクライナ>メドヴィク/スィルニキ/ナポレオン/モルコヴニツェ <ジョージア>チュルチヘラ/ぺラムシ/トゥクラビ/ハチャプリ シェンプゼ/ゴズィナキ <アルゼンバイジャン>シェチェルブラ/パフラヴァ/ムレベ/シェキハルヴァ <アルメニア>ガタ/ルレット トゥ トラバシュ <トルコ>バクラバ/カトメル/フスティク エズメスィ/アシュレ/カザンディビ/メシル マジュン/カイマックル ロクム/タシュカダイフ/アイバ タトゥルス/ジェゼリエ/キュネフェ/マラシュ ドン ドゥルマ/ラズビョレィ

トルコのお菓子の紹介が多い。パン職人でフランス菓子修業したということでトルコの菓子はちょっと特殊で興味深かったのだろうか?鶏胸肉たっぷり入った甘味のあるミルクプディングとか、小さなパンケーキでピスタチオやミルクを詰めて揚げ、シロップに浸した郷土菓子とか。

世界遺産を巡るのも良いけれど、お菓子を巡る旅というのも少し憧れる。もし、国内で買えるとしても現地で食べたい。まあ、小麦と砂糖からは逃れられないだろうから、人生、最後の最後にするか、若いうちに行くべきだろう。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。