2021.05.16

神食(アンブロシア)の値段【私の食のオススメ本】

神食の値段表紙

  • 書名:神食(アンブロシア)の値段
  • 著者:ゆづか正成
  • 発行所:講談社
  • 発行年:2016年 第1巻

アンブロシアとはギリシャ神話に出てくる神々に不死をもたらす食物の頂点。神の食卓さえもお金で買えるのでは、という時代。それはどんなものでどんな値段(コスト)によってできているのか、という壮大なテーマの漫画なのだが…

主人公は二人の男子高校生である。結城俊は学校一の秀才で教師や生徒に人気の生徒会長でなぜか経営に長けている。伊豆丸恵太は人付き合いは悪いが秀でた舌をもち、料理の腕前はプロ級。

この天才二人がその才能をフル活用して閉店寸前の、不人気の店や大規模チェーンに客を取られてしまった店を再生しながら「神々の食卓」の域を目指すストーリー。

作者のゆづか正成は「鋼の錬金術師」の荒川弘のアシスタントをしていた。師匠同様オリジナル原作の構成力はあると思う。ステレオタイプな料理漫画にはならないであろうと思った。

この漫画の出現までは、少年・青年漫画において、美味しさの料理対決のようなものが主流だったが、いよいよ「金(経済)」と「味」のバランス問題がテーマになってきたのだと感じた一冊。

とはいえ、最初は商店街の学生に人気だった唐揚げ屋の話。わかりやすいのである。状況を知った二人は「どうせ店を閉めるなら、僕たちにこの店を預けてみませんか?」という決めゼリフで再生にとりかかる。

神食の値段の主人公たち

安い冷凍肉はドリップがでないように冷凍から蒸す。蒸した時に出るスープでじゃがいもを茹でるなどのアイデアが散りばめられるので料理レシピ的な内容も含んでいて便利。それぞれのストーリーに具体的なレシピもついてくる。

別の章では居ぬきの店舗にあったタンドールで焼き、その種に乳清ホエー)を使うスフレ・パンケーキ。石焼きスフレオムレツも出てくる。仕入れの値段がテーマの章では、売り物にならない魚介を魚屋任せで毎日仕入れコストを下げトッピング可能なブイヤベースがでてくる。

秀才の結城俊は「飲食店の価値はメニュー、サービス、雰囲気の3つで成り立つ」と言い、伊豆丸恵太はイベント性を打ち出すレストランで「うまいものを食わせれば客はもっと笑顔になる」と言い放つ高校生によるスーパー「フードビジネス」漫画だ。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。