2026.01.30

藤原辰史「戦争と農業」
【私の食のオススメ本】

  • 書名:『戦争と農業』
  • 著者:藤原辰史
  • 発行所:集英社インターナショナル
  • 発行年:2017年第1刷 2024年第6刷

(下線のあるテキストは詳細などにリンクされています)

この本は2017年に発行された。この年は日本のフードテックの幕開けとなった「スマートキッチン・サミット・ジャパン(SKS JAPAN)」が開催された年である。その2年後には『フードテック革命』が上梓されている。

そんな時に日本の歴史学者・農業史研究者で農業史を専門とする著者、藤原辰史は、その帯に「テクノロジーは農業と戦争を通底する」と池澤夏樹が書いた本書『戦争と農業』を世に出している。そして2024年には第6刷となっているところを見ると、この本を読みたいと思う人が途絶えないということだろう。

しかし、「トラクターが戦車に、化学肥料が火薬に、毒ガスが農薬になった」というコピーが帯にデカデカと書かれているが、このコピーで食いつく人のために、ここで紹介しているわけではない。そもそもトラクターとキャタピラを別々に輸出して戦車に組み立て直しているなどという話は昭和の時代からあった。



余談だが、筆者も映像機器と通信機器を積んだイベント用大型トラックを韓国へ持ち込むためにココム(CoCom)規制用の膨大な申請書類を提出したことがある。冷戦下における対共産圏輸出統制で東芝がココム違反を起こした後だったからなおさら厳しかった。そのぐらい日常だった。

現在は冷戦下ではないが、より厳しくなっているのは当然の状況だ。軍事転用可能な貨物や技術(デュアルユース品)が兵器開発等に流出するのを防ぐため、国際的な枠組みに基づき、経済産業省が外為法でリスト規制やキャッチオール規制を実施。2025年10月には工作機械、半導体、ドローンなど対象が拡大され、企業に厳しい確認義務が課されている。 



この本での話は「トラクターが戦車に〜」というコピーに「えーっ」と驚き、怒って政治的抗議をしようという話ではない。これは、われわれが「食」の根源である「農業」の行く道を間違わないように、自分を見つけ出そうという話である。

RIFFでは著者・藤原辰史の別の著書『食べるとは どういうことか』をこのコーナーで2025年に紹介している。こちらの本は食と農の専門家の京都大学人文科学研究所教授でもある藤原辰史が12歳から18歳の若者8名と一緒に語った、食と農を考える哲学ゼミナールの記録である

そして本書『戦争と農業』は、「2016年の2月から8月にかけて、さまざまな場所で食べものや農業の歴史をめぐって話した内容を五つの構成し直した」もの。つまり机に向かって顔の見えない不特定多数に対して書かれたものではない。そこには具体的な人がいる。藤原辰史の本の面白いところはこの辺にあるような気がする。

「食堂付属大学」と名付けられたその会は、昼食付き講座ではなく「講座付き昼食」。研究室でおいしい野菜をたっぷり使った弁当を食べながら、あるいはキャンプ場で野草を摘んでかき揚げにして・・・など。参加者の多くは子育て世代の女性。

本書は、20世紀以降のトラクター、化学肥料、農薬といった<農業技術>が戦車、火薬、毒ガスのような<軍事技術>と”双子“のような関係で発展してきた歴史を紐解く内容となっている。

簡単に言うと、効率重視の食のシステムが、飢餓と飽食、そして戦争を加速させた構造と、その共犯関係について論じているのだ。

具体的に書かれている内容は以下の通り。

  • 技術の転用(デュアルユース): 農業機械のトラクターは戦車へ、化学肥料は火薬へと技術的に密接に関わって転用されてきた実態。また、毒ガスが農薬に転用された歴史も解説されている。
  • 「土」と戦争の結びつき: ナチス・ドイツの「血と土(Blut und Boden)」や日本の農本主義が、食料確保を大義名分として他国への侵略を正当化するために機能した分析。
  • 効率化の代償: 20世紀の「緑の革命」など農業の効率化・近代化が、増大する人口を支える一方で、環境破壊や食の不平等(飽食と飢餓の共存)をもたらした構造的な問題。
  • 現代のシステムへの警鐘: 私たちが平気で利用している「安くて安全、かつ効率的な食」のシステムが、戦争や環境破壊と無縁ではないことへの意識変革を促している。 

それは農業技術史、環境史、ドイツ現代史の知見をもとに「食を通して戦争と技術の不条理な関係を明らかにしていこうという場」にある椅子に腰掛けて聞いているような感じだ。

われわれは、これもRIFFで紹介している『教養としてのフードテック』にあるように、フードテックの進化で生まれた「副作用」や「罪悪感」について考え、技術による持続可能性(SWGs)」と「人間らしい豊かな食体験の両立」を目指すべきだと思う。

一方、本書にある農業技術と軍事技術の双子関係を歴史に学んでおかなければならない。

藤原辰史はこう書いている。
「迅速・即効・決断の社会は、人間の自然に対する付き合い方も、人間の人間に対する付き合い方も。硬直化させてきました。それは、感性の鈍麻をもたらし、工作・施肥行為をする農民は、機械や肥料工場の末端のデバイス(装置)となり、戦争での殺人もベルトコンベヤでの作業のような軽易なものになりつつあります。」

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。