- 書名:外食を救うのは誰か
- 著者:鷲尾龍一
- 発行所:日経BP
- 発行年:2022年
1986年生まれの著者は2019年から日経ビジネスの記者に。それ以前は2008年京大を卒業後、読売新聞大阪本社へ。4年半の地方勤務の後に経済部に所属。10年ほど大阪・東京の小売、電気、インフラ、金融、スタートアップ業界などの取材を行っていた。日経ビジネスに移ってからは主に総合商社の動向、企業買収、外食業界を取材している。
コロナ禍で外食産業が低採算、ブラック企業、閉店ラッシュに突入したように言われるが、外食産業経営者の言葉を借りると、コロナで起こった問題は一つもなくて、すべてはコロナ禍まえから起こっていて「コロナ前から瀬戸際だった」というのが本書。
で、25兆円の巨大産業である外食産業が危機にひんしている!?
うん、そんな気はしてたが実態がピンと来ない・・
著者は、子供の頃から「外食」はさまざまな形で身近にあったが、捉えどころのない産業だという。外食は「楽しく生きるにはなかったら淋しいが、なくても腹は満たせる」という存在だともいう。
瀬戸際までに至った「本当の問題」はなんだったのか、そこにあった事件を取材し検証していく。さらに外食産業の未来を模索する挑戦者を取材し、危機を変革の時として転換させるヒントにしてもらいたい考えている。
以下の取材内容は消費者としても業界関係者としても認識しておくべき内容だと思う。しかしそれは、もう一度「食」のあり方に向き合うためだ。
新興ハンバーガー店の敗戦記(国内2000店舗の夢/行列の呪縛/使えなくなった顧客情報) コロナ後の閉店ラッシュ(おとり広告/営業秘密侵害/余裕のなさはコロナ禍前から) 外食が抱える構造問題(競合店だらけ/低い参入障壁の弊害) 食べログが一審で敗訴(新規顧客偏重が招いた争い) グルメサイトの光と影(3.5点の攻防/デリバリーと外食店の共存) 外食の業態がコロナ禍で明暗(ウォークインに強い店舗が苦戦/一強のマックはコロナ以前に改革) 流行り廃りを超えて(淡路島に外食街/塚田農場・未完成の店を地域と作る) 個店とチェーンの融合(個性を買収するクリエイトの連邦経営/ちょうどいい店舗数/住宅街にポツン・戦わずして勝つ、やきとり大吉) 人手不足に負けない店(スマホでチップが下げた離職率/旬が過ぎた塚田農場のオペレーション変革)
著者はこれらの取材からいくつかの外食産業の未来を考えていくための考え方を導き出している。それは「好立地からの脱却」などマーケティングの数値からは導き出せないものだ。あえて逆張りをする人間のセンスだけが見つけられることでもある。
もう一つ、本書のタイトルを見直すと、「外食産業を救うのは・・」ではなく「外食」を救うとある。救うべきは外食ビジネスではなく、街に生きる人々の楽しみである「外食」のことなのだと思う。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。