2025.08.15

朝倉あさげ「ウイスキーの味覚図鑑」【私の食のオススメ本】

  • 書名:ウイスキーの味覚図鑑
  • 著者:朝倉あさげ
  • 発行所:株式会社カンゼン
  • 発行年:2024年 

日本のウイスキー評論家といえば、誰もが土屋守氏を挙げるだろう。1992年『スコッチ・モルト・ウィスキー(新潮社)』に始まり1995年『モルトウィスキー大全(小学館)』は、すべてのバーテンダーの教科書となった。土屋守氏はにおけるウイスキーの宣教師と言える。1998年にはハイランド・ディスティラーズ社(現在はEdrington傘下)より「世界のウイスキーライター5人」の一人として選ばれている。

ということなのだが、本書は土屋氏の著作でもなければ、ウイスキー文化の香りもない、ただのウイスキー好きでウイスキー・オタクによる評価本である。

評価されたのは特別なビンテージものや、希少なウイスキーではない。大衆ボトルから高級ボトル、といっても一般小売価格900円代から7〜8000円という、海外ブランドから日本のクラシックまで割と入手しやすいものばかり。

しかしながら、138本の国内外のウイスキーをそれぞれストレート・ロック・ハイボールの3つのスタイルで飲み比べ、独自の評価を行うという、オタクならではの作業はなかなか読み応えがあるのだ。

ウイスキーの面白さは他の酒にはない複雑さと奥深さをもった味覚にある。しかしながら、テンプレートのようなキザな説明ではなく、自分の言葉でストレートに表現してみた、というのが本書である。

著者、朝倉あさげはウイスキーについて綴ったブログ『なもなきアクアリウム』を執筆している。「バーは好きだけどコミュ障なので滅多に行かずもっぱら宅飲み」という。その著者はこれまでに約300銘柄のウイスキーを飲んできた。そのうちの138銘柄が本書には登場する。

オタク少年が大人になってウイスキー推し活をするようになったら、こんなデータを作り上げるのだろうか。オタク言葉やネットスラングをも多用して書いたとあるが、そうでもない。草、とか時々出てくるだけだし、嫌味な言い回しに根底にはウイスキーへのリスペクトが感じられる。

ブナハーブン12年をして「アイラ発・万人向け・異端児。ロックは炊き立てのご飯のような香り」などと評しているが、愛を持って「ストレートでもよし、加水してもよし、冷却してもよし〜ブナハーブンからしか摂取できない栄養素を確かに感じる・・・」と書いている。

また、ブラック&ホワイトは「スコッチ風味の欲張りセット。ロックはわかめの入った味噌汁」。「これぞスコッチといえるピートやスモーク、出汁っぽさだったり軽快な柑橘感、モルティ感など幅広く網羅しているボトルなので、まさしくスコッチ風味の欲張りセットといえる」としている。

特筆すべきは「味覚アイコン」である。写真のように直感的な評価軸が並ぶ。

土屋守氏のウイスキー大全を持ってバーに行く気はないが、この本ならばこっそり忍ばせ、ウイスキーを頼んでコメントと味覚アイコンと照らし合わせてニヤっとしてみたい。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。