- 書名:コーヒーと恋愛
- 著者:獅子文六
- 解説:曽我部恵一
- 発行所:ちくま文庫
- 発行年:2013年
獅子文六のこの作品は1962年から1963年に『可否道』というタイトルで読売新聞に連載された小説。1962年は、キューバ危機、国産旅客機YS-11完成、ビートルズデビューなど、世界と日本で様々な出来事が起こった年である。高度成長期のど真ん中でもある。1963年には新潮社より刊行。その後、1969年に『コーヒーと恋愛(可否道)』として角川書店文庫化された。本書は正式に「可否道」が外され『コーヒーと恋愛』として2013年に新たに文庫として刊行された。確認できているところでは2017年で18刷となっている。
つまり、50年以上読まれている高度成長期のモダンな恋愛小説なわけである。昨今のコーヒーブームを考えると、『コーヒー』というものがただの飲み物ではないのだなと思ったりする。
「コーヒー と 恋愛」は、テレビの初期から人気俳優の坂井モエ子、43歳と、彼女が淹れる絶品のコーヒーをきっかけに始まるドタバタな恋愛模様を描いた、獅子文六によるユーモラスな恋愛小説。モエ子が演劇に情熱を注ぐ恋人・勉(ベン)ちゃんと幸せな生活を送っていたはずが、勉ちゃんが若い女優のもとへ去ってしまったことから、物語は始まります。悲嘆に暮れるモエ子が友人に相談し、コーヒーを巡る騒動が展開されていく。
しかし、現代とは時代のリズム感も違うと思うのだが読まれ続けているのも少しだけ不思議である。読書評を見てみると、古臭くてよくわからなかったというのも見受けられる。当然だろう。注目すべきは解説を元サニーデイ・サービスの曽我部恵一が書いていることだ。
曽我部恵一は神保町の古書店でこの文庫を見つけ、その世界観に魅入られてしまい、「コーヒー と 恋愛」まで作ってしまった。収録されている『東京』というアルバムはサニーデイ・サービスの最高傑作とも言われている。
そのジャケットは、この文庫本の表紙の写真とデザインをそのまま使っている。違うのはコーヒーカップの有無だけである。
また、ネット上で詞が探せるので検索して読んでみてもらいたい。曽我部恵一が獅子文六から受け取ったものが感じられる気がする。
解説で曽我部恵一は、読者に向けて「読了された方は、この小説の持つ独特のヒップさを堪能されたことと思います」と書いている。
時代を超えて長く読まれる風俗小説の、人間以外の主役がコーヒーというのは、ちょっと素敵だ。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。