
- 書名:恥ずかしい料理
 - 著者:梶谷いこ 写真:平野 愛
 - 発行所:誠光社
 - 発行年:2020年
 
「恥ずかしい料理」とは、他人(ひと)に見せようとは思えない、こんなの食べてるんですと積極的に話せない、自分や家族のためにだけ作られた料理のことである。
或いは、「みんな作ってると思ってたら、ウチだけやった」というような料理だ。
つまりはSNSにポストしておこう、などと夢夢思わないであろう料理だ。しかし、それこそがその人を、家族を、物語るものなのだ。
そんな料理がなぜその家にあるのか?
著者、梶谷いこは友人や知り合いの家に、写真家・平野 愛とともに上がり込み、その料理のレシピと存在する訳を根掘り葉掘り聞き出すという作業をやった。
著者、梶谷いこは、” 決して人には見せることのない日常の食事にこそ、手触りのある物語は宿る。見栄えもしないし、今どきでもない、すべての家庭料理に愛を込めて。”と前書きで書いている。


登場する「恥ずかしい料理」は、
在日韓国人4世の実家暮らしの女性による万能タレ「パジャン」を使った『辛そうめん』。結婚17年のカメラマンとイラストレーター夫婦&黒猫の家の変身する煮物『こんころ煮』。食べざかりの息子をもち老舗となった古着屋を営むお母さんの 『肉だんご』。24歳で銭湯経営者になって10年、4軒の銭湯を運営する銭湯活動家の 『納豆たまごオクラ鶏肉混ぜ』。一人暮らしの女性アマチュアチェロ奏者の立って食べるマーガリンにこだわり続ける”きゅうりトースト”など。

これらは「いつものご飯」である。そのエピソードとレシピを読みながら、その人や家庭に育つ生き方に引き込まれていく。著者自身のことを振り返りながら、取材対象の物語を引き出していく文章力にも惹かれる。
梶谷いこが見てきた他人に見せることのない「恥ずかしい料理」とは、それを食べる人たちにとって、如何に「日々を作るいとおしい料理」であるか。それぞれの物語をもっと読みたくなる不思議な本でもある。


著者、梶谷いこのInstagram
https://www.instagram.com/iqcokajitani/
            
            
            
            
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。