”自分らしい人生の土台をつくる場所”をテーマに、発達に特性のあるお子さんへ将来の自立を見据えた支援を行っているヴィストカレッジさん。利用者さんが運動や生活、社会スキルを自分のペースで身に付けるため、様々なプログラムを実施しています。
今回は「仕事」や「働く」に触れられる体験型プログラムの一環としてA_RESTAURANTを舞台に仕事体験を行っていただきました。
プログラム開催までの経緯
事前の打ち合わせによると、
- 「発達に特性をもった方々の就職先としてサービス業が多く選ばれている」
- 「現実問題として、仕事体験をお願いすると断られる企業さんも多い」
- 「子ども達にとっては”働く”ことをイメージするのが難しい」
とのこと。
金沢食藝研究所、KNOWCH、Alembic そして A___RESTAURANT と様々な角度から”食”へのアプローチを試みる弊社であれば、何か協力できることがあるのではないか。
飲食業界への雇用について模索している最中でもあったため、「それならば是非うちで…!」という今料理長の一声により、今回のプログラム開催が決定しました。
仕事体験に参加してくれたのは、小学6年生から高校2年生までの9名の子供達。キッチンとホールそれぞれの担当に分かれ、レストランのオープン準備から、実際にお客様(保護者の方々)がご来店され、料理を提供するまでの一連の流れを体験してもらいます。
開店準備
ホールチームは、お客様のご来店時間に間に合うように掃除をし、テーブルや椅子を並べるなど、各セッティングを行います。開店時間に間に合うようにレストランスタッフの指示を受けながら、チームでの協力が必要になる大事な場面です。
途中、掃除機のコードが絡まってしまったり、テーブルクロスをピンと伸ばすのに苦労したりする様子が見られましたが、率先して動こうとする姿がとても印象的でした。
一方キッチンでは、実際に自分たちの手で一から料理を作ってもらいます。
メニューは、この日のために考案した『スイカのマカロン』です。
旬の能登スイカを使い、優しい甘みをしっかりと味わってもらえるよう、ソルベを挟み提供します。「家庭で失敗しがちなマカロンパリジャンに、その場でチャレンジしてもらう楽しさを味わって欲しい」というパティシエ・清水の思いも込められた特別メニューです。
マカロンの生地を混ぜ、着色し、絞り袋に入れ、大きさを揃えて丸く成形するのもすべて子ども達が行います。「大きさを揃えるのがむずかしい」「生地を絞るのが1番緊張した」など、苦戦したり緊張したりしながらも、指示を受けながら手を動かす時の子ども達の真剣な眼差しが、とても眩しかったです。
開店
ホールの準備が完了し店内の照明が落ちると、子ども達からは大きな歓声が拡がります。いよいよお客様のご来店です。ホールチームはお客様を席までご案内し、ウェルカムドリンクを提供します。
その頃、キッチンでは時間との勝負に追われていました。ホールの様子を伺いながら、タイミングよく料理を提供するため、素早く飾り付けを行います。
今回はお客様の目の前で仕上げのソースをかけるため、ホールチームにプレートを渡したら、キッチンチームもソースを持ってお客様の元へ向かいます。目の前で完成される料理に、お客様からも歓声が上がっていました。
デザートのあとは、ホールチームがお客様にコーヒーか紅茶のどちらかをご提供。子ども達はお客様へのお声掛けが難しく、言葉が抜けてしまってとても緊張したようです。
お客様に感想を伺うと、
「初めて食べる味!」
「色合いがとても綺麗」
「マカロンなのに味がスイカのまんまで驚いた」
など味に関する感想はもちろん、
「まさか子ども達が作ったこんなにおしゃれなプレートを楽しめるなんてびっくり」
「飾り付けだけをするものだとばかり思っていたので、料理からサービスまで実際に子供達が一から作っていて感動した」
という、今回のプログラムに関する感想も伺うことができました。
振り返り
料理の提供後、自分達が作りあげた空間で自分達が作ったものを実際に食べながら、振り返りを行いました。
子ども達は、
「みんなと協力して作業ができて良かった」
「実際に自分で作ったものを食べてもらうのはドキドキした」
「ごゆっくりなどのお声掛けが思うようにできなかったのが悔しかった」
など、飲食店の仕事や接客業の楽しさ、そして難しさを肌で感じたようです。
今回、A_RESTAURANTで経験したことが、子ども達の将来に何らかの形で繋がったら嬉しく思います。楽しい経験になったのはもちろんですが、「悔しかった」という声を聞く事ができたのは、とても大きな成果なのではないでしょうか。
「将来の選択肢の一つとして飲食業界へ進んでくれる子ども達が少しでも増えたら」
今回のプログラムが学びに繋がったのは、子ども達だけではありません。
「主語を具体的に言うなど、指示の仕方が特に勉強になった」
「時間に追われて焦っているけれど、焦りを見せたり怒ったりしないように気をつけた。子ども達が指示通り動いてくれるので助かった」
など、レストランスタッフとしても様々な学びがありました。
今料理長は、「今回のプログラムが”自分にも出来た”という貴重な体験になれば嬉しい。彼らの中で一人でもこういう仕事が選択肢の一つになればやった甲斐がある。自分達が得るものも多く、伝え方や教え方のスキルアップにも繋がった」と振り返ります。
はじめは緊張して強張った様子の子ども達が、最後の挨拶では疲れたような、けれども明るく輝いた笑顔を見せてくれたのがとても印象的でした。数年後、A___RESTAURANTで一緒に働くメンバーがこの中にいるかもしれないと思うと、今から胸が高鳴ります。
記録・文:土屋 佐季 (金沢食藝研究所)
作成協力+写真:上土井 大志