2022.04.13

ドミニク・レステル 肉食の哲学
【私の食のオススメ本】

肉食の哲学 表紙

  • 書名:肉食の哲学
  • 著者:ドミニク・レステル 訳:大辻都
  • 発行所:左右社
  • 発行年:2020年 

この本は肉食について未来へ行動を進める参考にはならないのだと思うが、こういう位置づけで肉食の意義を見つけ出せるのだと感心させられる。これは極端なヴィーガン主義者の論法の対極にあって、全くもってどちらも同じ匂いがする。読んでみることは薦めるが、内容には賛同するものがあまりない。何かがすっぽり抜けているからだ。

これはベジタリアニズムへの批判で、特に動物の権利・動物への配慮から肉食を忌み嫌う「倫理的」ベジタリアニズムを粗い、議論で打ち砕こうとしている。飲み屋で否定に否定を重ねて相手を黙らせようとしているオジサンのエッセイ。ただ厄介なことに著者は哲学者であり動物行動学者だ。動物行動学を起点に人間と動物や機械の関係に語ることを職業としているのでなんか理論的。

「ヴィーガンの心がけは立派だ。だがその道は地獄に続いている」というのだが環境問題などは置き去りだ。すっぽり抜けているのはここか!そして現在の畜産はすでに限界に来ている。

レステルは「本来、ヒトも他のすべての生物とともに生態系の中で生きている。その中心には捕食行為があり、相互の命の交換が行われている。その循環があるにもかかわらず、ヒトにのみ他の動物がしている行為を禁じることはヒトと動物間に境界を築いてヒトを特権化し、循環から除外することにもなる」と言う。

うーん、すごい言い方だ。これを使えば大概のことは論破できそうだ。しかし、これはマルタ・ザラスカの著書人類はなぜ肉食をやめられないかにある250万年の肉食の世界以前から考えても永久の真理ではない。人間には食われる(捕食される)自由がないからだ。(「人間は犬に食われる自由がある」と言ったのは写真家・藤原新也だが、インドで道端の死体を犬が食う写真の話だ。ヒトはそうそう生きたままでは食われない)。

ただし「肉食は我々の義務である」というレステルも、現代の肉食をただただ礼賛してはいない。過剰な肉食が生み出す問題に対して、「政治的ベジタリアン」として肉食の機会を限定する解決策を提案している。

うーん、やっぱり厄介なヒトだなあ、というのが感想だ。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。