2022.04.08

マルタ・ザラスカ
人類はなぜ肉食をやめられないか【私の食のオススメ本】

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人類はなぜ肉食をやめられないのか 表紙

  • 書名:人類はなぜ肉食をやめられないか
  • 著者:マルタ・ザラスカ 訳:小野木明恵
  • 発行所:インターシフト
  • 発行年:2017年 

1847年に英国ベジタリアン協会が発した健康志向の「ベジタリアン」から始まり、近年、健康や宗教だけではなく、思想も含んだ完全菜食主義「ヴィーガン」も台頭している。そして大豆ミートなど『代替え肉』が注目され、食ビジネスにおいては勝機も含めスルーできない状況になっている。

しかし、個人的に長い間モヤモヤしていたことがある。なぜ「代替え」なのだ!なぜ肉そして肉の味というものから離脱する道を求めないのか?このことは、60年にわたって大豆ミートを作り続ける日本最大のOEM企業『不二製油』の清水洋史社長もテレビのインタビューでこう答えている。

「肉の代替品であるうちはまだまだです」

そうなのだ、さすがだ。
いま、ヴィーガンや代替え肉メニューを用意するかしないか、などと考えているようでは話にならない。食の未来を考える者はその先を考えなければならないところに来ている。必要なのは対応ではなく提案だ

そんな思いで以前「肉食」というものを考え始めた先にこの本があった。

ところで、日本で肉食が始まったのは旧石器時代らしい。このころは寒さが厳しく木の実もとることもできず、肉への栄養依存が高かった。これは本書にも書かれている、肉を食べようとしたのは必要な栄養を手っ取り早くとる手段だったということと一致する。

長い間、日本人は米づくりをしてきた。そのため牛は農耕のために古墳時代に導入され飼育されていた。つまり働けなくなった牛は食べられていたと想像できるのだ。奈良時代には豚もいたことが文献からわかっている。

仏教が国教だった大和政権時代、肉食は規制された。675年、天武天皇が牛・馬・犬・猿・鶏を食べることを禁じた。日本最初の肉食禁止令だ。貴族の間では肉食が穢れであるということで浸透した。しかし禁止令が出たとはいえ、庶民の獣肉食の風習は消滅しなかった。一般的に豚が食べられるようになったのは19世紀からだという。2000年前から存在していた鶏が本格的に食べられるようになったのも江戸時代。(このRIFFでも以前の対談の中で江戸時代の肉食、豚肉食について歴史学者・三石晃生氏が触れている)

日本の状況における肉食の歴史はザックリこうなのだが、西欧については60年にわたって発行され続けている鯖田豊之肉食の思想 ヨーロッパ精神の再発見」も読んでおいていただきたい。

さて、どんなにほかの食べ物が豊富にあっても、肉食にこだわってしまう欲求を「肉飢餓」というらしいが、これは生理的な欲求というより文化的な問題らしい。えっ、そうなのか。

本書「人類はなぜ肉食をやめられないか」の著者マルタ・ザラスカは「ワシントンポスト」や「サイエンティフィック・アメリカン」などに寄稿するサイエンス・ジャーナリストである。著者の家族は長くベジタリアンだったが母は違った。ある日彼女は肉食がもたらすリスクが書かれた記事を読み、2009年にベジタリアンになることを決める。しかしそれは2週間で終焉を迎える。「肉が好きだから肉を食べるのよ。ただそれだけよ」という言葉で。

そこから娘である著者の疑問が湧き出し、ジャーナリストしての探求が始まる。「動物性タンパク質にある何が私たちに肉を食べたくたくてたまらなくさせるのか」「肉を断つのがこんなに難しいのはなぜか」「肉を摂取することが人間の健康に本当に悪いのであれば、なぜそもそも人間はベジタリアンに進化しなかったのか」。

この疑問の答えを探す旅に同行するように読めるのが本書だ。かなりの文献や取材に基づいてはいるが、学術書のような難しいワードもなく「なぜ人類が肉を食べるのかを探求」していく。

それは15億年前、古代の細菌が他の細菌の肉の味のとりこになったときから始まった。古代の細菌はお互いが分泌物を出すことで共同体として平和に生きていた。ある日、その中の一つがズルをして他者を飲み込むことでエネルギーを得ることを知る。

ヒトが生まれ、そして気候変動により植物による栄養確保ができなくなり、大きくなっていく脳のために効率よく肉からエネルギーを摂取する必要が生まれる。この250万年の本格的肉食が始まるまでの進化(=人間化)を、歴史年表のように解説していく著者。

著者はもともと菜食主義者であるが、この本は都合のいい話を集めたヴィーガン啓発本とは違う。人間がいかに肉食から離れることが難しいか、離れるべき理由があること、ヴィーガンが向かない人もいること、ジャーナリストとして淡々と調べ上げていく。

肉が私たちを人間にした話(自己顕示・駆け引き・セックスと権力・文化の象徴)。肉食における栄養神話の検証。惹きつけられる味の秘密。菜食主義が失敗した理由。ベジタリアンになる人、なれない人のこと。肉のタブーはなぜあるか。売り方の戦略。肉食と地球の未来との関係。次の栄養転換のステージの入り口にいること。

本書では「急速に肉のとりこになったアジアのこと」を取り上げている。1939年の日本人の平均的肉の摂取量は2.8g/日(年平均)であり執筆時では133gになったとある。好む動物性タンパク質はマグロではなく豚肉であるとも書いてある。これらは西洋の影響だとも。

また、著者は戦後、戦争の勝者がハンバーグやステーキ、ベーコンをたらふく食べる姿を日本人が見ていたと続ける。加えてマクドナルドを日本に持ってきた藤田田が「千年間ハンバーガーを食べ続ければ、(日本人も)金髪になるだろう。食を通じ世界に伍していける真の国際人を育成できれば」と言ったことも日本人の感情としてうまく表現していると書いた。

これらの事実ではあるが個人的にはちょっと気に入らない書き方はおいておいて(著者は先に書いたような江戸時代の肉食などについて正確に記述しているので)、肉食ができない人へのメニューを考える立場の料理家や、畜産と環境の未来が気になる人であるならば一度は読んでおく方が良い本だと思う。肉食に関しては広く深い理解が必要だ。先に書いたが「対応」だけでは解決しない問題がある。

自分はDNAに刻まれた(かもしれない)肉食の起源から離れるところには至らないが、その研究を行う企業や料理家には注目していきたい。食と農に末端で関わる人間として。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。

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