私の父と母は、割と仲が良い方だと思う。小競り合いのような言い合いは毎日のようにしているが、いわゆるケンカを見た事はほとんどない。
70歳をすぎた今では、お弁当に珈琲、母の手製のケーキなどを持って四季の花を見にドライブに行ったり、道の駅やJAめぐりをし、その戦利品を自慢げに届けてくれたりする。
そんな父と母のケンカに遭遇した記憶が1度だけある。あれは、私が高校生の頃だったか。原因は覚えていないが、ちょうどお昼前くらいに父の大きな声が居間に響きドキドキしたことを覚えている。
激高する父に、最初は何か反論していた母も終いには黙り込み、「ご飯にするわ」と台所へ。居間に激おこのおじさんと女子高生が話す訳でもなくテレビを観ている状態。いや、テレビを観るしかない状態。
「おにぎり何個食べるー?」の声が台所から響く。
「2個ー!」ととりあえず叫び返す私。
父が「〇個ー!」と答える空気ではなかったのは私でも分かる。父、だんまり。テレビからの笑い声が寂しく響く。
しばらくして、台所からクスクス笑い声が聞こえてきた。
なんだ? どした? と私が台所へ行くと、私と母の普通サイズのおにぎりに加え、なんじゃあこりゃー!まんが日本昔話か?というビッグサイズのおにぎりを作る母。
それを作りながらクスクス笑っていたのだ。ビッグすぎて苦戦すらしている。大きなおにぎりをさらに大きくしようとする姿が、わが母ながらちょっとかわいいな、と思った。
運ばれた巨大おにぎりを前にした父。まだムスっとしてる。
…手ごわいな。
一方、「さ、食べよ♪」とすっかり機嫌が治っている母。
私と母がおにぎりを食べ始めると、父も無言で食べだした。顔が隠れんばかりのおにぎりを。「マンガみたいやね」と言った私に、父も我慢できなくなったのか、
「でかいやろ!!」
とひと言放ち全員爆笑。
あー良かった!と心で思ったのと、母の仲直りの仕方が最強すぎて尊敬した。自分の機嫌を自分で取ることができる強さも。現在私も結婚したが、大きなケンカはしたことがないのでこの仲直り法はまだ実戦したことがない。ただ、どちらかの機嫌が悪くなった時、空気の悪さを解消してくれるのは、いつも食事の時間な気がする。
会話のない食事ほど美味しくないものはない。母の作戦を使う日が来ない事を願うが、重い空気を打破するおにぎりの力をちょっと試してみたい気もする。
text:Ryoko Takakuwa
(本稿はOPENSAUCE元メンバー在籍中の投稿記事です)