2021.12.21

阿古真理 料理は女の義務ですか
【私の食のオススメ本】

料理は女の義務ですか 表紙

  • 書名:料理は女の義務ですか
  • 著者:阿古真理
  • 発行所:新潮社
  • 発行年:2017年

まず内容と違い、この本のタイトルは大いに誤解されたのではないだろうか。特定の主義主張が並んでいるように取られてしまいそうだ。阿古真理を知らなければ、または研究してみようと思っていなければ、手を出していなかったかもしれない。

もしかして出版社としてその誤解を逆手にとった販売戦略に出たのであろうか?著者、阿古真理も少し悩ましかったのではないだろうか。

これは、食文化ジャーナリストでもあり生活史研究家の阿古真理流のインタビュー取材と史実、データから読み取る「家庭料理を女性がどのように担ってきたか」を論じている壮大な内容だ。

壮大ではあるが、タイトルからイメージされる特定の価値観を押し付けるようなことはなく、その複雑な女性と料理の歴史を理解していける。その上で阿古真理は「社会進出した女性がスーパーで売られる惣菜・加工食品に頼って、家庭料理が衰退している」という声に対して、負担が大きい、毎日の料理は大変といいながら、なぜ多くのその女性たちは料理をやめないのか?を問う。

阿古真理はこの本の章立てで、「スープの底力」「保存食は楽しい」「常備菜の再生」を主な柱にして分析を行っている。

この本で初めて、土井善晴のあえて家庭料理はシンプルで良いというヒット本「一汁一菜でよいという提案」の問題点を提起している人に出会った。

一つは、ご飯と味噌汁と漬物だけでいいという点。漬物を常備する家がどれだけあるか?カロリーの高い肉や揚げ物などを求める成長期の若者、ジャガイモなどの固形物を好む幼児など、食卓の多様性を否定するのはいかがなものか、という。

もう一つは「お母さんが料理をしてくれることは愛情の証」という土井のもつ前提だ。近代史に見る女性を台所に閉じ込めてきた考え方だという。

人はなぜ料理をするのか。このテーマからスタートしたというこの本には結論がないかもしれないが、料理を嫌いにならないで、嫌いになるならやめてみてもいいんだよと筆者が言っている声が聞こえる。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。