2023.04.19

dancyu
開眼 豆腐料理【私の食のオススメ本】

  • 書名:月刊dancyu 2023年2月号 開眼 豆腐料理
  • 発行所:プレジデント社
  • 発行日:2023年1月6日

豆腐は紀元前2世紀の中国が発祥の地とされている。そして鎌倉時代に中国から日本に伝わった。精進料理に使われていた高級食材だったが江戸時代には一般にも普及した。「体に毒を作らない」「栄養価が高い」「体液を増やす」食材として薬膳にも使われるようになった。

アメリカではtofuとして完全に定着し、ハウス食品はHouse Foodという豆腐メーカーとして認識されていて、オーガニック系でない一般のスーパーでも同社の13種類もの豆腐が並んでいる。ヘルシー思考の人や肉を食べないベジタリアンやヴィーガンにとっては「良質なたんぱく質」「植物性脂肪」、加えてビタミンやミネラルが取れる豆腐は必須アイテム。

日本では賞味期限が短いのでロスのリスクがあるので大型店以外ではそう多くの品揃えはない。しかしアメリカは保存料なしでも完全滅菌法でつくられ完全密閉で売られるため賞味期限は1〜2ヶ月。日本との差で言えば、通常の絹ごしや木綿が主流に対してその固さの段階が多かったり、スモークやベジタリアン・ハム、スパイス入りなどのアレンジ製品も多い。

海外でも豆腐(特に日本の豆腐)はブームを超えて定着しているが、われわれは本当に『豆腐』をちゃんと考えて食べてきただろうか?本当においしく食べてきただろうか?

新年に発売された『dancyu』 2023年2月号の豆腐特集は、個人的にはなかなか興味ある内容だった。

「ながらく私は豆腐を軽視していた」から始まる作家・角田光代の巻頭エッセイに少し共感した。角田は豆腐を食すのは手抜きかカロリーダウン、かさ増しのためだと考えていたが、40歳で豆腐のおいしさに目覚め、それまでの自分を猛省した。

目覚めさせたのは『湯豆腐』だった。そして40歳という年齢だったという。それを角田は志賀直哉の小説に例えている。若い時は豆腐のシンプルな味わいを美味しいと思う舌と心を持っていなかったように、30代後半で読み直すまで志賀直哉の<凄み>がわからなかった、と。

豆腐に目覚め、毎日豆腐料理を食べるに至った角田光代が言うように<年齢を重ねて自分が成熟したとも成長したとも賢くなったとも思わないがそのおいしいもの観と豆腐観だけは、きちんと大人になってよかった>と自分も思いたい。

若くして、これは「おいしい豆腐だ!」とか言って食べている人も、実はその白いかたまりの奥深さをわかってはいないのではないだろうか。むしろ、ほとんどの人がわかっていなくて当たり前なのかも。年齢もおいしさの大きな要素だ。

余談1。
dancyuの植野広生氏は2017年に編集長に就任した。創刊27年のdancyuは「男子厨房ニ入ルべカラズ」の<男厨>から来ている。創刊より「食はエンターテイメント」を標榜している。日本一ふつうで美味しい『植野食堂』のリアルショップ『dancyu食堂』を立ち上げたり、だいぶビジネスにおいてもエンターテイメント感が増したが、60代になった植野氏の視点や味覚が後輩スタッフに伝わるといいのだが。

さて、本誌の「豆腐の究極は味噌汁にあり」という最初の記事では、豆腐の切り方と温め方で見違えるようにおいしくなるのが味噌汁だとある。そして、味噌汁の豆腐は入れすぎないこと、するっと口に入るように小さめに切ること、とある。そう言えば、普段は豆腐をただ均等に切っていただけだなあ、と反省。

花屋兼業の漫画家・花福こざるの豆腐の水切りの正解を見つける実験まんがも面白い。通常のキッチンペーパーやザルを使うことから塩をふる、茹でる、レンジを使うなど様々な方法や時間によって抜け出る水分が1%刻みで変わっていく。

レンジを使うと外側が硬く中がトロトロというおいしい偶然も生まれる。この漫画のデータは貴重だ、一つひとつ試したい。「水切りを制するものが豆腐を制す」なのだ。

RIFFでも取り上げている「七草」主人の前沢リカ氏は、白和えのことを考えると夜も眠れない(笑)という。そのおいしさを「こっくりとクリーミー」なのに「すっと消える豆腐の和え衣」と書いている。

豆腐の<衣>という響きはすてきだ
菜の花。炒めこんにゃく。奈良漬けとほうれん草、油揚げ。焼き海苔と粒うに。春菊とにんじん。白和えの「小宇宙」である。

前沢氏の「合わせる時は(水分がでやすい)菜箸よりゴムベラの方がよい」「和えムラを残した方が口に運んだ時の単調さを避けられる」というプロのテクニックというよりも豆腐に対する思いが伝わる。

そして豆腐の作り方。沖縄の『ゆし豆腐』である。「ゆし」とは寄せるという意味だが、この豆腐はボイルした大豆ではなく生搾りの豆乳から作る。

生搾りと聞くと、富山市の山あい、八尾町の『長江屋豆富店』の『八尾のとうふ』が頭に浮かぶ。ご夫婦でゆっくりと手仕事でつくる豆腐はやさしい豆の味がし、日本中からお店を訪ねる人が後をたたない。寄せ豆腐ではあるが、たまには本誌のレシピで自家製豆腐を楽しむのもいいのでは。

料理研究家の瀬尾幸子による別綴じ「厚揚げブック」の16レシピが楽しい。厚揚げでなければこの味にならないという三大つまみ。鶏もも挽肉を詰めた厚揚げをシンプルに醤油と砂糖と水だけで煮たもの。生鮭と厚揚げを味噌で炊いたもの。厚揚げと牛スジの土手煮。酒のための豆腐レシピブックだ。

茶色の世界はおいしい。表面の艶やかさを求める考えはすっぱりと捨てている。

余談2。
厚揚げばかりではなく白い豆腐も染めてしまうこの茶色を日本人は見ただけで美味しいと見抜いてしまう。この「ワザ」を、色とりどりのキャラ弁で育った子どもたちには残せるのだろうか?

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。