- 書名:小さなお店のDX導入&お店創りストーリー
- 著者:宮本ヒロシ
- 発行所:同友館
- 発行年:2024年
この本は著者の知り合いだから取り上げたわけではない。こういう身近で具体的な例を読めば個人経営者のDX導入のメリットが大きいということがよく伝わると思える本だったからだ。
いちばんに思ったのは、この本を小規模な店の経営者だけでなく、社員として働く店長や料理長、現場の中間管理職の人に読んでもらいたいということだった。中途半端に担当部署があると、飲食の現場はタコツボ化し、PRや人事、営業は自分たちの仕事ではないとしてしまう現象が起きる。
それぞれが事業の成り立ちの部分のすべてを考え、意見を出し合い、お互い理解した上で専門の作業を担当すべきだと思う。そのためには考える時間、学ぶ時間を生み出すことが必要だ。そのためのDXなのではないだろうか。そう気づいてもらうにためにも読んでもらいたい。
本書の目次を抜粋すると、飲食店でDXが進みにくいこれだけの理由/攻めのDX・・売上を上げる/客数を増やす/客単価を上げる/食品ロスをなくす/攻めのDX・・顧客の把握/守りのDX・・人件費を下げる/守りのDX・・スタッフ募集などなど〜これらが解決していければ時間はできる!はず。(具体的内容について、ここではあえて紹介するのは控えた)
コンピュータやインターネット、SNSなどが得意な人には、素人向け導入本のように見えるかもしれないが、やさしく会話文で書かれた宮本さんとクライアントとのやりとりはリアルだ。そのせいか書店からのリコメンドも大きい。
宮本ヒロシさんと会ったのは2008年頃だったと思う。出会いは当時の家の近所にできた、焙煎もする大箱のコーヒー専門店で、最初は店長という立場だった。すぐに親しくなり、よくよく聞いてみたら、地主にコーヒー専門店という事業を提案し、経営を請負い、利回りを還元するというビジネスモデルを、コンサル会社から独立して自分で始めたばかりだった。まだ20代半ばだったがお子さんが3人いた。
面白い匂いがした。お金や数字と真っ直ぐに向き合う若者。それでいてエモーショナルな部分も大切にする。親しくなり、近隣のレストランや銀座に新しくできた女性だらけのデザートディナーの店へ視察に二人で行ったこともある。何店舗も経営するようになってからは、インテリアデザイナーを紹介したりもした。
17歳からイタリアンレストランでバイトを始め、18歳の時には店長となり、大学生のバイトを使うまでになった。21歳で飲食コンサルの大久保一彦氏のカバン持ちとなりコンサルの現場、会議を見て多くを学んだという。飲食の経験積んできたが、それでも経営者となると違ったのだろう。最初の2年は苦戦したという。
店作りを見直して、経営は右肩上がりになった。思考のアップデートをしたのだ。コンセプトを「売りがない店」とした。
「結局、その店の指揮をとるのはオーナーや店長。トップが何を考えているかによっては店は良くも悪くも大きく変わる。」
「店はこういうコンセプトだからこのコンセプトに合う人だけ来てね、といった制限を設ける必要はない。だから4つの時間帯に分けてメニュー構成や空間演出も変えて営業しました」
「良いなと感じられる点が複数散りばめれている方が長持ちする店になります。」
そして、コーヒーに合うものをと考えて作ったバームクーヘンが人気となり、埼玉県のふるさと納税の返礼品にもなった。
「売りがない」をコンセプトにしたカフェでもキラーコンテンツは重要課題かもしれない。それはどんな人でもどんな利用の仕方であっても欲しくなるものがある強さだ。
日頃から思っているのだが、レストランにはこのキラーコンテンツとなるシグネチャーメニューが一品必要なのだと。
そして、そのキラーコンテンツを生み出すにも思考や試作の時間が必要だ。そのためにはDX、ということだろう。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。