- 書名:台所おばあちゃんの結婚
- 著者:田辺真知子
- 発行所:岩崎書店
- 発行年:初版2002年 2008年第3刷
大正9年生まれでフェリス女学院大学を卒業した永島トヨさんは、10代の頃から好きだった料理の道一筋に結婚することなく生きていた。そして74歳の時に21歳年下の琴講師と文通が始まり77歳で結婚し、世間を驚かせた。
なにせ家政科の講師から始まり、当時も「台所おばあちゃん」として現役でテレビの料理番組や料理雑誌で活躍していて有名だったのだ。
この本はトヨさんの歴史と、トヨさんのいちファンから夫となった森岡道人さんとの愛を育てていった数年の書簡が中心になっている。料理に関する本というより、大きな老後の選択をした女性の話である。
いま、この本を見つけて読む人は少ないと思う。しかし、料理一筋で「教える」ということに情熱をもって生きてきたトヨさんだから書けた真っ直ぐな手紙だ。それに答えるご主人の手紙も誠意のかたまりだ。この時代、ぜひ読んでほしい。
トヨさんの料理エピソードも面白い。
ある正月、テレビで七草がゆを教えたときは、おかゆは米から作るのを言うんですと説明してからトヨさんは「七草、ナズナ、唐土の鳥と日本の鳥が渡らぬ前にトトトントン(Riff記事参照)」と歌いながら七草がゆを作った。
また、トヨさんに習って、後に料理研究家になった一人は「四季折々の食べ物を母親が教える感じで指導してくださいました」と語る。ご主人の森岡さんもテレビでトヨさんを初めて見たころ「日本のお母さんがみんなこんな人だったらすばらしいだろうな」と思ったと言う。
白菜の千切りでは「…千切りといっても、そんなに細かくしなくてもいいの。太い人にはね、私はよく、あなたはずいぶん太く丈夫そうに切ったわねというのよ」と軽妙に話す。
現代では嫁や主婦ということ、食事は女性が作るものという考え方には抵抗があるし、変革されるべき時代の途中だ。しかし、過去において主婦が家庭で作り出した料理文化までをなくしてしまってはいけない。
なぜか、文末にレシピが2品ある。
うの花いり(炒り)と白玉団子である。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。