- 書名:料理の意味とその手立て
- 著者:ウー・ウェン
- 発行所:タブレ
- 発行年:2020年 2022年第4刷
「もやし炒めはごちそうです。」
もやしを炒めるだけだが、この本の冒頭では「ほんとうに美味しく食べたかったら」と続く。
著者、ウー・ウェンさんの伝えたいことはここにある。「ほんとうに美味しく食べたかったら」まずはもやしをきれいに洗って、ひとつひとつヒゲ根を取り除かないといけない(ヒゲ根は傷みやすく匂いのもと)、と言う。
そして、1袋分のもやしのヒゲ根を取るためにかかる時間は一生懸命やって5分(たった5分でおいしさに近づくんだ)。さらに炒めにはいってからのもやしとの真剣な対峙はバス釣りの如し。
この冒頭の部分でTシャツだけど襟を正して読み始めることになる。
「そもそも、炒めものは忙しい人がわざわざ作る料理じゃないのです」
えっ、そうなの?コペ転だ!!!
この本で語られるのは、必要な材料や調味料はほんの数種で手順も少なく時間もかからないもの。しかし、食べると「細胞が芯から喜ぶ」ようなもの。
やさしく沁みるスープ。素材の味が力強い炒めもの。蒸し料理のみずみずしさ。手間がかかっても覚えたら一生の友となる小麦粉料理。
塩の役割。油の温度の上手な使い方。炒める、煮る、揚げる、和えるといった調理の仕組み。すべては「素材のおいしさを引き出すために考え抜かれた料理のセオリー」なのだ。
レシピは、冒頭の「もやし炒め」「小松菜の塩炒め」「母の茄子のピーナッツオイル炒め」「回鍋肉」「麻婆豆腐」「鶏の唐揚げ」「蒸し豚」「ポテトサラダ」「れんこんのねぎ油和え」「春菊の白和え」「きゅうりと油揚げの炒め物」「酒粕の入った肉団子鍋」「白菜と鶏肉のせん切りこしょう風味炒め」「白菜の甘酢炒め」「白菜の芯の炒め物」「豚ひれ肉とほうれんそうからし和え」・・・
ちょっと見ると和食のようにも思えるが、写真で見ても中国料理の香りがしてくる。こんな中国おばんざい屋が欲しいものだ。
料理写真を、普段はありのままの人間を切り取る天才、写真家・長島友里恵が担当していることも面白い。
中国からやってきて結婚し、夫に先立たれ、シングルマザーとして始めた中国家庭料理のクッキングサロン。本書はウー・ウェンさんが料理をサロンで教える場にいるような「読むレシピ」である。
そこでは通常のレシピでは書かれることのない料理への心も語られる。
「料理は毎日のことで、からだを作ってくれるのは食事だけです。人生の一食を大切にしてください」
この言葉を受けて、学校の給食だけが唯一の食事という子供たちが増えているこの国のことを思った。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。