2026.02.12

池田譲「タコのなぞ」【私の食のオススメ本】

  • 書名:『タコのなぞ』〜海の賢者の秘密
  • 著者:池田 譲
  • 発行所:講談社
  • 発行年:2024年 2025年代2刷

韓国、スペイン、イタリア、ポルトガル、南フランスは好きな国だ。なぜならタコを食べるからだ。タコを食う民族とは気が合うと思い込んでいる。世界の真ダコ供給の主要産地であり、日本の輸入量の約7割を占めるモロッコとモーリタニアは行ったことがないが、「タコ、好き」とか言えば、「オー!ニホン、タコヤキ、グレート!」とか言ってイミグレーションは通過できそうな気がするので親近感はある。

あと、少なくともタコ漁をする漁師が必ずいるということ(たぶん)。海外におけるタコ漁は「蛸壺漁」と「トロール漁」がメインだ。「蛸壺漁」は1kmの長さにわたる縄に、間隔をあけながら百数十個のタコ壺を結んで海底に沈めて捕る、きれい好きで岩穴などに隠れるのが好きなタコの性質をうまく利用した方法。エサを必要としない日本発祥の漁法で、日本人がモーリタニアなどで1970年代に日本の技術指導を行なったことでタコ壺漁が普及した。

Youtubeなどでタコ釣りやタコ漁の動画が大量に配信されているが、海岸線に設定されている「共同漁業権」の区域内で、漁業権者の許可なくタコを採捕する行為は「密漁」となり、100万円以下の罰金が科せられることがある。個人で食うんだ、と言っても勝手に獲ることは認められていないのだ。これを知らないとTVに出てくる顔にモザイクの密猟者となるかも、だ。あと、蛸壺も一般素人は使用できない。潜水器具での採捕も原則禁止。

ニュースでも取り上げられることが多いが、モーリタニアでは、かつて世界有数だった漁獲量が乱獲や環境変化の影響で減少していて、全盛期と比べて約6割程度のようだ。海水温の上昇も、特定の海域でのタコの漁獲量減少の一因と考えられている。

また、タコには高い知能があると言われることから「タコ養殖」に対する倫理的な懸念や環境負荷への懸念も出て来ているとのこと。イルカ同様、この<知能>ありなし問題にはモヤモヤするのだが。将来、人間に変わって工場で働いてくれるところまでになる可能性があるというのなら、同僚になるのだから仕方がない。

アメリカのカリフォルニア州(2025年1月施行)とワシントン州(2024年3月成立)は、すでにタコの商業的養殖を法律で禁止している。高い知性と感情を持つタコを密閉空間で育てるのは「動物虐待(アニマルウェルフェア)」にあたるという理由。タコは問題解決能力が高く、痛み、ストレス、恐怖を感じるとも。加えて環境負荷や共食いのリスクが背景にあるようだ。カリフォルニア州では養殖だけでなく、食用タコの販売や所有も禁止 されている。さらに、養殖および養殖タコの輸入を禁止する「オクトパス法案」も提出されている模様。

この動きは、ハワイ州にも及びそうだ。醤油やハワイアンソルト、ゴマ油、オイスターソース、ゴマなど味付けされたローカルフードの定番「タコ・ポキ(Tako Poke)」は消滅するのか⁉︎

また、近年になって欧米でもタコを食べる文化が広がり、需要が増しているため価格高騰が起きているという。タコを食べる国が好き、と言ったが基本的には輸入はしても自国でも捕る国、タコ食文化が続く国が好きではある。

輸入については、燃料費の高騰、円安などで価格も高騰し、外食産業などには影響が及んでいる。

国内の漁獲量をみてみると、日本全体のタコ漁獲量は約3万〜5万トンで推移していたが、減少傾向。近年激減している明石沖をはじめ、全国的に厳しい状況が続くだろうと言われる。海水温上昇、餌の減少によって、特に名産の明石ダコは最盛期の1割まで減少している。資源保護のため厳しい漁獲ルールが設けられている。 

ちなみに筆者は酢の物の「たこ酢」は好物だが、おせちの定番、甘酢漬けの赤い「酢だこ」の方はそんなに好んで食べることがない。別に苦手なわけではないのだが、生に近い方が好みなのかもしれない。

  いっとき、生の真タコは皮をむけばアニサキスのリスクはほとんどないというのを信じて、韓国料理の『サンナッチ』に、ハマっていたことがある。新鮮なテナガダコを生きたままぶつ切りにし、ごま油と塩で食べる<タコの踊り食い>もようなもの。

のようなもの、というのは、正確にはぶつ切り寸前までは生きていたというのが正しく、箸をつけるとよじ登ってくるように見えたり、口の中で吸盤が吸い付くように感じるのは、まだ神経が生きていて反応するからである。

さて、この「酢だこ」だが、関西より南では旨煮として煮込まれることが多いらしい。そのまま食べるのは関東より北の方と聞く。南は旨煮と書いたが、熊本の人吉地方では甘酢漬けのものをそのまま食べる。保存食として主に山間部の食文化だった。不思議なことに九州の他の地域ではあまり見られないらしい。

「タコ=多幸」の語呂合わせや、赤色が魔除けとして縁起が良いとか、外側の赤(紅)は<喜び>、身の白は<始まり>を表すといことでめでたいと言われ、おせちの定番になったらしいが、赤くしないとデビルフィッシュとして忌み嫌われるのだろうか。

ということで、いろんなタコ問題はこれからも続くいていくのだろうが、われわれは「タコ」のことをどれほど知っているだろうか?

知らないよね。紹介する本書『タコのなぞ』〜海の賢者の秘密 にはこんな謎が88もあるのだ。これを知って何が解決するのか、正直わからない。

著者、池田 譲は琉球大学教授。日本一のタコ学者だ(小学生のときのあだ名はイケ、だそうだ)。「タコにはなぞがあるのです」と、タコの体、能力、生態そして誕生から死までを教えてくれる。これがやさしく興味深い。なにせ、小学生向けに書かれた本なのだ。

例えば、タコの血の話である。

ころんで膝小僧を擦りむいたとき、何かに鼻の頭をゴツンとぶつけたとき、赤い、鮮やかな色の血が出ます。動物たちも血を流します。まな板の上で切られる魚からも、赤い血がにじみ出ています。
ちょっと待てよ。タコを切ったら赤い血は出るかな?


出ません。

と、読者である子どもたちを驚かす。子どもでなくても驚く。遠い昔の話で忘れていた。そして赤い血はヘモグロビンの色素であり、タコにはなく代わりにヘモシアニンがあり色は透明で、酸素に触れると薄い青になることを伝える。

イカも同様だが、切っても薄い青い液体が流れ出るだけ。それがヘモグロビンだったら、タコ酢も血で真っ赤なのか!

例えば、脳の話。

タコにも脳があります。場所は左右の目の間です。(中略)タコの脳は体の大きさの割にはとても大きいのです。(中略)背骨がなく無脊椎動物というグループの一員です。無脊椎動物にはハチやミミズやエビなど色々な動物がいます。そのなかで、タコはイカと並んでいちばん大きな脳の持ち主です。このことはタコの賢さを物語っています。

これか!「動物虐待(アニマルウェルフェア)」にあたる話は。
そして続けて

タコには頭以外の場所に別の脳があるという話があります。その場所とは腕です。
タコの腕には神経が通っています。神経は情報を伝える役目を持っています。音や光や触り心地など、すべて神経が情報として伝えています。中略)腕の付け根が、タコにある別の脳と考えられます。

たこの腕は8本。よって別の脳は8つ。頭にあるひとつの脳と合わせてタコの脳は9つ!それぞれの腕で触って理解し、統合して認識するのか!

恐るべし、タコ!

● タコには心臓が3つ、脳が9つある!?
● タコのうでは、じつは折り曲げる場所が決まっている?
● タコは力持ちだけど、「重さの違い」はよくわからない?
● 陸上を走るタコもいる?
● 貝殻をもっているタコもいる?
● タコとイカの吸盤はぜんぜん別物?
● タコにも右利きと左利きがある?
● タコは「光の種類」が見分けられる?
● タコも夢を見ている……かも?
● タコはカモメを食べることもある?
● タコの死因は2つしかない?
●「地獄の吸血イカ」とよばれるタコがいる?
● ネコにタコを食べさせちゃダメ?
● タコは真水に入れると死んでしまう?
・・・・・・

こんなことを88個も読んでいると、タコにポジションを奪われるような気がしてくるのだが、実に面白い。そして、ちょっとだけタコを飼ってみたくなるのだが、その知能に勝てるだろうか?

さて、タコは人生の終盤に産卵する。北海道などで「たこまんま」として流通する水ダコの卵は、冬(1〜2月)や初夏にも旬を迎える。卵は房状で「海藤花(かいとうげ)」と呼ばれ、母ダコが孵化まで約1ヶ月間、飲まず食わずで世話をする。 

われわれ日本人はこれを寿司ネタとして、醤油漬けや、軽く茹でてポン酢、天ぷらなどで食べるのである。

食べるからには知らないとね。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。