2021.11.29

落語の食 柳家小三治 「うどん屋」

udonya-ukiyone

※画像:日本めん食文化の一三〇〇年

昔は、夜になりますと二八そばなんてものが江戸の町を流して歩いた。

江戸っ子はそばが好きで、うどんはそれほど好きではなかったそうです。

「うどん? あんななまっちろくて患ったメメズみたいなもん食えるかい」

とは小三治師匠の枕ですが、うどん屋はそば屋と比べてしばしば、キツネと比べたタヌキのように、間抜けなゆえにひどい目に遭うキャラクターとして登場します。

売り声も、そば屋は「そぅ〜〜ば〜 ねぎ南蛮、しっぽく〜」と、夜の江戸の町の屋根から屋根へ粋に行き渡っていきます。
うどん屋は「な〜べや〜きうど〜〜〜〜〜〜ん」と、なんとも間抜けな売り声で町を回っていたら…

「うどん屋」のストーリーはほぼ、屋台を引いていたら酔っぱらいに延々とからまれてしまう…というだけ。

それだけに、迷惑な酔っぱらいと、なんとか話を合わせるうどん屋の会話、描写だけですべてが進むため、噺家の腕が問われる演目です。当然、小三治師匠の名演は一見の価値あり。

とある江戸の寒い夜のどこにでもある光景を切り取った、鍋焼きうどんのような心暖まるお話です。

一度聞けばうどんをすするたびに、酔っぱらいには酔っぱらいの事情が、うどん屋にもうどん屋の事情があるんだなぁ、と思い出すことでしょう。

WRITER Yuhei Nakai