- 書名 ウマし
- 著者 伊藤比呂美
- 発行所 中央公論社
- 発行年 2018年
帯の裏にも書かれた『食べ物とは、もしかしたら自分じゃないか。』という言葉が素敵だ。日本の詩壇にドーンと穴を開けるほど詩人・伊藤比呂美のデビューは鮮烈だった。映画化もされた「良いおっぱい 悪いおっぱい」という一世を風靡したエッセイ本は、十数年の時を経て完全版がでている。これは、その好き嫌いの多い伊藤比呂美の「グルメではない食いもん連載エッセイ」をまとめたものである。
ポーランドに住み、アメリカに住み、熊本を行ったり来たりの彼女が綴る懐かしいもの、苦し不味し、またハマったもの、の三部構成。ホットチートス、ひとり蕎麦屋、モンスタードリンク、スコットランドのマーマイト、マンチェスターのカレー、チビ太のおでん、菓子パン、魚肉ソーセージ、あるどう猛な卵料理…これを読んで、医者にとにかく太れ、痩せたら負けだと言われたガン治療中の友人を思い出した。もともと食にこだわりがあった彼女は、食欲を失った時にポテチのあのジャンクな味によって突如として食欲を回復させたのだ。
けしてジャンクフード礼賛の本ではないけれど、自称アメリカに住むおばさんの「味の記憶」をめぐる冒険であることは確か。特に生卵好きな父親とその遺伝子を継ぐ伊藤比呂美の言葉も沁みる。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。