2021.09.27

銀の匙 Silver spoon【私の食のオススメ本】

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  • 書名:銀の匙 Silver spoon
  • 著者:荒川弘
  • 発行所:小学館
  • 発行年:2011-2020年

著者、荒川弘はあの“ハガレン”こと『鋼の錬金術師』の“あらかわひろむ”である。不覚にも長い間、男性だと思い込んでいた。

2001年にハガレンを発表して以来、そのペンネームからと、自画像が牛だということ、連載中に出産と育児があったにもかかわらずで休載することがなかったからをせず、アナウンスもしなかったからなどが理由かもしれない。じつは最近まで同じように思っていたファンも多いらしい。

荒川弘は北海道の農業高校の出身だ。漫画家になるまでの7年間は農業従事者だった(エッセイ漫画『百姓貴族』も面白い)。銀の匙にはばんえい競馬の騎手をつとめる、酪農家が実家で馬の仕事に就きたいマドンナ的同級生と、お金大好きな共同経営型酪農家出の女子キャラがいるのだが、著者がどちらかのモデルであるかどうかはわからない。

この15巻の漫画で農業高校と農業、特に畜産と酪農の知らないことだらけなのを知った。命をいただくこと、食べることとは何かを考えさせ、消費者と生産者の視点から農畜産物を見つめ描いているのだが、どんな農業本よりもある意味リアルだ。そしてそのリアルは笑える。

「人間は家畜のドレイだ」と教師に言われ早朝からの実習。おいしく食べるために動物に愛情を注ぐ生徒たち。

生まれたばかりの仔牛は立ち上がる前にさっさと親と離し別舎に連れていかれ、よろよろと立ち上がる仔牛とのTV的感動のご対面もなく、産後を人間に任せることに慣れた牛は忘れたように餌を喰むという現実。そして乳牛のオスは1週間で肉牛育成業者へ渡される。

それらに直面した主人公を見て笑わせてくれることはアクションや言葉が誇張された漫画であることの救いかもしれない。

もちろん、コメディ漫画の定番的ドタバタや勘違いドラマもあり、展開の緩急をつけてくれる。ネタバレになるが、鶏の卵は肛門からうまれることを知り、逃げ出した鶏を捕まえた礼にその場で首を落とされた鶏でフライドチキンをご馳走になる主人公・・・

ハガレン連載中からこの『銀の匙』は構想されていた。獣医や農家がテーマの漫画はあるが、農業高校漫画はないということもあり連載が決まったらしい。もうひとつの理由は、アンケートで中高生が将来のことをかなり気にしている、ということがあった。

進学校の中学から農家出身の子供たちが集まる農業高校に入学した主人公とその仲間たちがくり広げる青春物語ではあるが、それぞれの子供たちがかかえる不安や問題にどう向かい合って解決していくか。

そして解決できないこと、というものがあることも知り成長していくのだが、解決していこうという意思が重要であることは読者にも残る。

最終巻では「起業」という、これから農業における重要なテーマをもって見せ、未来へ繋いでいる。

  • 「マンガ大賞2012」第1位
  • 「全国書店員が選んだおすすめコミック2012」2位
  • 第3回「ブクログ大賞」マンガ部門大賞
  • 第58回「小学館漫画賞」少年向け部門受賞
  • 農林水産省主催「Contents Award of Japan Food Culture 2013」大賞
  • SUGOI JAPAN Award 2015マンガ部門第2位
WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。

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