2020.11.24

まかないスパイシーカレー。

2020年、FOODCLUBの#hashで始まった100円カレーのことを今橋シェフに聞きました。
(2022年現在、スパイシーカレーは、100円カレーではなく通常メニューとして提供しています。)

はじまりはseccaのスクープ皿

ミシュランの星を持つフレンチレストランのオーナーである今橋シェフは、以前のインタビューで「レストランの器やデザインコンセプトを担当しているseccaの上町さんと初めて出会ったのは、seccaが作ったスクープ皿からだったのですが、これはハヤシライスを食べるために作ったと言われてバカだなあと思ったんです(笑)。でもそのピュアな心がなんかスゴイなと、クリエーターってすごいなと自分には衝撃でした。そして、それをやるためにハヤシライスの店で修業したって聞いて、そこまでしてスクープ皿を作って、これが世に出ないのは嫌だなと思いました。」と答えています。

スクープはすくうという意味

そもそもレシピというものがないまま多くの料理人が作ってきたハッシュドビーフ。そして今橋シェフがお店の賄いとしてこれまで作ってきたハッシュドビーフを、改めて商品とすべくレシピ化し、完成させたのが#hashの『ハッシュドビーフ』でした。賄いを商品化した第一弾で、新しい素材で開発されたseccaのスクープ皿で提供されました。

カレーライスをFOODCLUBの#hashで出そう。

今橋シェフがそう考えたきっかけには、上町氏が2014年から1年間、金沢にハヤシライス専門店「涎屋」を開き、ハヤシライスの店ながら「ぎりぎりハヤシライス」という限りなくカレーに近いスパイシーなハヤシライスも出していたということがあります。

「レストランの賄いでもいわゆるハッシュ(細切れの)、お肉の端っこの方をつかっていろいろやるんです。その中にはカレーがあって、1週間に1、2回はどこでもやっていて若い頃によくやらされました。実は、カレーには料理の基礎がいっぱい詰まっていて、野菜をスライスだとかみじん切りにするとか、それを甘みが出るまで炒めてとか。これはキャラメリゼって言って飴色になるまで炒めるんですけど、あれもタイミングとかポイントとか、けっこう技術がいるんです。あとは出汁の旨味がグッと出るまで煮詰めるとか、肉を焼いてそれを柔らかくするとか塩加減とか。味の構成とかスパイスの調合とか、修業というか調理の基礎になっていくんですね。」

「それにカレーってキャッチーですよね。カレーってみんな好きだし、わー!カレーだ!とか心をくすぐりますよね。しかもそれぞれが好みがあっていろいろ言いたくなる(笑)。だったらFOODCLUBを知ってもらって、他のメニューや場を楽しんでもらうためにも、値段はすごく安くていいし、毎日でなくても良いから出してみよう、ということになったんです。」

今橋シェフは涎屋のスパイシーなぎりぎりハヤシライスの境界線をを超え、フレンチレストランならではの『まかないスパイシーカレー』を送り出しました。ハッシュドビーフに次ぐ賄いの商品化第2弾でした。

まかないカレーで料理人の旨さのポイントを共有する

今回のカレーでは塩豚(パンチェッタ)の塩分だけで、塩そのものは使っていません。以前、今橋シェフが肉屋さんから、販売するには賞味期限が短いからといってもらった豚肉を塩豚にして、それをレストランの賄いカレーにしたのが塩豚カレーの最初でした。

「豚のバラ肉、豚肉って旨味がすごく詰まっています。どの肉よりも旨味の含有量が高いんです。だからカレーにはすごく合うんです。店で賄いで作ったら、美味しくて共同創業者でパティシエールの平瀬から後日、また作れとリクエストが来ました(笑)」


自家製パンチェッタが最高の旨味を出す

「塩豚の塩分のみと言いましたが、実は一番最初のものには香り付けで熊本の醤油をちょっと入れてみたんです。その次のものには入ってないんです。さらに野菜を1.5倍に増やしたのでスパイス感もまろやかになっています。初回同様、辛さはありますが少し丸くなっています。

(微妙に調整しているところが)料理人としてのカレー作りの良さなんです。こういうところが旨いポイントなんだなと自分でやって、自分が頭の中で描いた味を出すのにカレーって難しいんですがとてもイイんです。だから若い時からハッシュドビーフもそうですがカレーも作り続けています。」

逆算して煮詰めるソース、カレー。

「実は煮詰める作業ってほんとは難しいんです。和食って煮詰めたりする作業ってあんまりなくて、出汁ってパッとできるじゃないですか?フレンチスタイルだと濃厚に濃縮するって作業があるんで、それをゴールに考えて逆算してこういうふうに(出汁を)とるっていうやり方をします。カレーってそういう研鑽にはすごくいいんです。」

「こういう濃度にしたいから小麦粉は何グラムとか。その感覚を数字に落とし込むという作業を今回初めてカレーでやったんです。面白かったんですが難しかったですね。ハッシュドビーフの時もそうだったんですがレシピ化する難しさってありますよね。」

「余談ですが、スープの詰めかたもモノによっていろいろ変わります。例えばアルコールをレデュイール(煮詰める)する時は、ちょっと優しく煮詰めると味がやわらかくなるし、沸騰させてバーっと詰めると立つというか尖ります。ゼラチン質が多いものは周りをこそげ落としながら戻してやらないと旨味がそのまま周りに残ってしまいます。意外とそういうチマチマした作業をしないと0.1のチリ積もになって…。結局、出来は同じなのに何かが足らないというのはたぶんソコ、その差なんです。」

詳細なレシピがあっても料理は同じようには出来上がりません。それが料理の面白さでもあるかもしれませんが、作る人、ちょっとした材料の差、さまざまなタイミング、シチュエーションでも変わってしまいます。しかし大量生産されるカレーは常に均一的な味に感じます。

「工場で大量生産されるカレーはみんな甘い方向になります。甘くすると(味の安定化は)割りと簡単なんです。スパイスを聞かせたりとか味の奥行きを出すのはけっこう難しいんです。今回、使用したスパイスは定番で自分が入れているものなのですが、その強弱というのは考えました。例えばカイエンヌという唐辛子とかはメーカーが違うと辛さも違うんですね、一回冷まして温め直すと変わってきたりします。」

旨さの原点は動物性の脂、旨味(出汁)、スパイス

「玉ねぎをキャラメリゼするには豚の脂をを使います。動物性じゃないとコクが出ないんですね。レストランの賄いとかだとフォアグラを調理して出た脂とかも使うんです。独特の鴨の香りがあってすごくいいんです。」

「100人分のカレーには9キロの玉ねぎを使っています。これを手作業でみじん切りにします。若い時は早く終わりたいから一生懸命にやって、手も早くなるので練習になります(笑)。それと、フードプロセッサーを使うと水分も出てしまい、苦味も出るんです。あとはそれに赤ワイン、フォンドボー、ブイヨン、トマトピューレの旨味などを凝縮した出汁にスパイスですね。」


9キロの玉ねぎをキャラメリゼする

味でつながる

冒頭のseccaの上町達也代表は岐阜県出身。大手メーカーのプロダクトデザインに携わった後、「全ての根本となる食に携わる仕事をしたい」という思いで大学時代を過ごした金沢へ戻り、次世代人材育成を目的とする一般社団法人GEUDAの支援でプログラマーや陶芸家、エンジニアなどが集う場にハヤシライス専門店「涎屋」を開業しました。

金沢経済新聞2014年のインタビューに「GEUDAのメンバーやお客さまからの意見がとても良い刺激になる」「お店がものづくりの意見が集まる場に、また情報発信のハブになればうれしい」と答えています。

その後、上町氏はseccaを起こし涎屋のハヤシライスを食べるための器を最新のテクノロジーでデザイン、商品化し、現在そのデザインの器は#hashのハッシュドビーフの器となり、金曜日にはギリギリハヤシライスならぬ『まかないスパイシーカレー』が盛り付けられ提供されています。


涎屋で調理中の上町氏(2014年当時)

GEUDAと涎屋のあった昭和3年建設のビル

様々な思いやモノやコトや人がつながって出来上がったのが『まかないスパイシーカレー』です。

食の場というものは人が集まり、常に何かが発信され、つながっていく場でもあるんですね。

食を考え、食を楽しむのがFOODCLUB。たくさんの人に来てもらって笑顔になってもらう場を提供するのもミッション。カレーは笑顔を呼ぶ。どうせならと思い切って、金曜日限定100円という価格で100食を用意することにしました。(※2022年現在、スパイシーカレーは、100円カレーではなく通常メニューとして提供しています。)

(文責:編集部 板谷 )

FOODCLUB(金沢駅西口 クロスゲート金沢2F)
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