- 書名:STANDART 日本版
- 創刊編集長:Michal Molcan
- 発行所:STANDART JAPAN
- 発行年:2017年日本版創刊(海外版創刊2015年)
年4回発行されるこの雑誌はいま、日本のスペシャリティコーヒーを扱う、ロースターを含めたコーヒー店やエスプレッソ専門店などで置いてないところはないではないかと思う。店の人たちは定期購読していることを誇りであるとでもいうように店の目立つところに並べている(もちろん、専門誌としてバックヤードに置いて熟読している人も多いだろう)。
STANDARTはスペシャルティコーヒーの文化を伝えるインディペンデントマガジン(季刊誌)だ。2015年に生まれたStandartは、日本、オランダ、ロシア、ジョージア、スロバキア、イギリスに住むメンバーから成るフルリモート企業でもある。新しい出版メディアの形としても面白い成功例だ。言語別に4つのバージョンを発刊。世界各国でイベントも行う。
「この人間的なアプローチはStandartにまつわる体験すべてに共通しています。一杯のコーヒーができるまでの過程から、人間の感情や感覚を取り除くことはできません。だからこそ私たちは電子媒体で溢れる現代に、触れて感知できる喜びを伝えるため、すべての記事を紙媒体の形で発行し、文章とイラストと写真を通してコーヒーの世界で日々生まれるさまざまな物語をそのままの温度でお届けしようとしているのです。(創刊編集長 Michal Molcan)」
「ジャーナリスティックな視点から生まれる、人にフォーカスした妥協のないコンテンツを世界中に届ける」ことをゴールにしているのが、このサードーウェーブの波とともに生まれた本誌。なんと定期購読するとコーヒー豆のサンプルも付く。
そうか、温度が違うのか。購入者が店に並べたいのは、客の時間つぶしのためではない。全員がスマホを持つ時代、この印刷物は常時使用のスマホの熱よりちょうどいい温度でいてくれるのかも知れない。
音楽の世界も以前のようにレコード会社が主体ではなく、インディーズとして世界を席巻するレーベルやアーティストが台頭している。メッセージをもった者が直接発信していく。それが本来の姿なのだろう。単なるビジネスからの発想ではもう世界の人々は動かない。
「印刷物の制作には多大なコストがかかることもあり、何を誌面に掲載するか、そしてしないかについて真剣に考えなければいけません。何より、一旦印刷して世に出たものを回収することはほぼ不可能です。だからこそ、コンテンツのキュレーションや編集、そしてビジュアル要素の選定には細心の注意を払っています。(創刊編集長 Michal Molcan)」
個人的には日本版の文字の大きさがうれしい。大きすぎず、小さすぎず、デザイン優先で読めないということはなく、ページを開いて現れるイラストとレイアウトは、シンプルな絵本を除くように気持ちよく、ワクワクする。昨今の雑誌の店紹介的な、マイクロ文字で詰め込んで綺麗にみせるコーヒー特集とはベクトルが違うのだ。
本質的には、家で飲むコーヒーにこだわり購入するようなコーヒーラバーからコーヒーに従事する専門家たちが中心の読者だとは思うが、幅広い内容で扱っているので一般の人たちにも楽しいと思える内容が多い。それぞれのコンテンツが短く簡潔で、文章も感情を抑えた表現で的確に伝わる。
この古いタイプに見える専門誌のあり方は全てにおいて最新なのではないだろうか。他の出版物にも影響を与えるはずだ。
Standart Japan のディレクター、室本 寿和氏は2017年日本版創刊時にこう書いている。「コーヒーはただの飲み物です。そんなただの飲み物が人々を魅了し、想像させ、引き付け合い、繋げます。私もそんなコーヒーの魅力の虜になったひとりです。コーヒーが繋げる縁に感謝し、Standart Japanがコーヒーを愛してやまない読者の方々との縁によって、日本のコーヒー文化の一部になっていくことが私の夢であり、この創刊号が長い旅路の良き出発点となることを願っています。」
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。