2022.03.09

専門料理2022年3月号
特集 現代のソース【私の食のオススメ本】

専門料理 現代のソース 表紙

  • 書名:専門料理2022年3月号 特集:現代のソース
  • 発行所:柴田書店
  • 発行年:2022年 

この号をただのソースレシピの特集と見ては勿体無い。ここにあるのはソースへの想いである。もちろん、ソースレシピもあって、専門家なら「これは面白い」となるのではないだろうか。料理専門家のための専門雑誌の最新版である。レシピを提供する側も力が入っているはずだ。

大特集に<ベテラン〜若手まで 8氏が作るソースと料理>がある。修業年数はわからないが、年齢で言えば66年生まれの「naoto.K」岸本直人氏と69年生まれの「レフ アオキ」青木誠氏。71年生まれの「レストラン カズ」篠原和夫氏と73年生まれの「アンフィレクス」JPカワイ氏。79年生まれの「アムール」後藤祐輔氏と80年生まれの「レストラン ローブ」今橋英明氏、81年生まれの「レクレルール」田熊一衛氏。そして86年生まれの「ソーセ」郡司一磨氏のフレンチシェフ8人の料理と編み出した定番や最新のソース。

この大特集で8人の一人として取材されている「レストラン ローブ」の今橋シェフには以前、仕事でプロフィールを作成するためにインタビューさせていただいた。80年代生まれなのでこの特集では若手なのだろうか。数年前だったので、その落ち着いた語り口と佇まいに年齢を聞き間違えたと思ってしまった。

今橋氏はパリから帰国後、ある時期、スーシェフを努めながら同時に鎌倉の農家で週4日の就農をするという特異な経験している。だから、今回紹介している「鎌倉野菜のサラダ仕立て」も、牡蠣に合わせて10〜15種類の野菜を生、茹でる、焼く、味つけなどそれぞれのアプローチをし一つの皿で合わせ風味をつける。野菜の個性を熟知している今橋氏だからこそできる仕事だ。

今橋氏は「ソースは素材の旨味を助長し、さらに魅力的にしてくれるもの」と前置きし自身のソース理論のあとに「フランス料理で学んできた経験を拠り所に、ソース作りにおいても良いものはどんどん取り入れる考えです」と結んでいる。

このように、大特集ではスタイルの違う8人が短いながらそれぞれのソース論を語り、ソースのレシピを公開し、料理を披露している。しかし、鰹節を使おうが鶏節を使おうが、その骨にあるのはやはり基本であるフレンチである。このフレンチでの比較が大特集になっていることも「今」のフレンチを再認識できて興味深い。

彼らのソースと、ソースとは何かを覗き見し、ソースレシピを共有させてもらえるという企画は贅沢だ。そして本号全体ではフランス、中南米、アジアそして「発酵」をテーマにした計89種類のソースレシピが公表されている。

料理人の考え方や個性を打ち出すものとして、ソースは多様化が進む。今の状況下、自由に“ソースを食べに行く”日が待ち遠しい。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。