光を通さない真っ黒なすりガラスのボトルに、筆で描かれたアルファベットの3文字。
「IWA(いわ)」という日本酒のブランドをご存じでしょうか。
酒造業界やお酒に関わる多くの人たちの間では数年前から話題になっており、今年で初リリースから3年目となります。
飲食店ではプレミアムな日本酒として提供される機会も徐々に増えてきました。
しかし、ファーストリリースから今まで3年間のリリースは、まだ酒蔵が完成しておらず、他の酒蔵の設備を借りて造られていました。
今回、まだ完成したばかりの新設の酒蔵を、特別に見学させていただく機会に恵まれましたので紹介させていただきます。
※酒蔵の一般公開はまだ受け付けていません。(2022年5月現在)
「IWA」とリシャール・ジョフロワ氏
日本酒「IWA」とは。
シャンパーニュ「ドン・ペリニョン」の五代目醸造責任者として28年間ドン・ペリニョンを率いたリシャール・ジョフロワ氏が、富山県でスタートしたゼロから日本酒を造るプロジェクト。
親日家であったジョフロワ氏は「大好きな日本のために自分も何かを残したい」という思いから、全く新しい視点で日本酒を造ることを目指しています。
その製品となる『IWA5(いわ ファイブ)』の大きな特徴の一つは「アッサンブラージュ」。
ほとんどのシャンパーニュに取り入れられる伝統的な技法で、様々な個性を持った異なる原酒をブレンドすることで味を調整していく技法です。
このアッサンブラージュを日本酒造りに取り入れることで、これまでの日本酒では表現できなかった「味の複雑さ」「ボリューム感」「広がり」、そしてジョフロワ氏が最も大切にする「料理との相性」といった”IWA5の個性” を構築しているのです。
ちなみにこのアッサンブラージュの技法を開発したのは、かつて修道士だった「ピエール・ペリニヨン」(後のドン・ペリニヨン)ということは有名な話です。
富山県白岩、新設された酒蔵へ
高速道路を立山ICで降り、白岩の集落を抜け、山へ登るように10分ほど車を走らせると、日本海まで見渡せるほど眺めの良い開けた土地に、IWAの新設の酒蔵があります。
辺り一面を山と田畑で囲まれたのどかな場所です。
リシャール・ジョフロワ氏に賛同してプロジェクトに参画したのは、建築家の隈研吾氏と、桝田酒造店の蔵元、桝田隆一郎氏。
「日本らしいところに酒蔵をつくりたい」という思いから三人が時間をかけて探し出したのがこの土地でした。
雄大な山、のどかな田園風景、水平線に広がる日本海、豊富な水原、きれいな川。プロジェクトのスタート地点として、三人の思いが一致しました。
この土地から5分ほど下ったところに、「白岩」と呼ばれる小さな集落があります。「この土地を大切にしたい」という考えから、会社名を「白岩」として、酒蔵の建設がスタートしたのです。
隈研吾氏の「一つ屋根の下」
五箇山の合掌造りをモチーフにした大きな一枚屋根の建物。この蔵の建築を手掛けたのは隈研吾氏。「一つ屋根の下」をコンセプトに(※)、醸造所、貯蔵タンク、ゲストルーム、調理設備、宿泊施設などが全て同じ建物の中に入っています。
※<日本のことわざで、多様なものと異質なものが集合し、連帯することを「ひとつ屋根の下に」(under one roof)という>ところからのコンセプト(KENGOKUMA&ASSOCIATESサイトより一部抜粋)
客人が土間で囲炉裏を囲むようにロの字型に作られたテイスティングスペース。
スタイリッシュで一見 無機的な空間ですが、木の温もりが感じられます。
このテーブルと椅子は富山県内にある「水橋神社」の杉の木を使って作られました。
天井の梁には氷見の杉の木が使われています。この他にも白岩の土で出来た土壁を内装に取り入れるなど、土地を大切に思う気持ちが表れています。
中でも驚きなのがこの建物内の壁紙。
白を基調にしながらも落ち着きと温もりを感じるこの壁紙、実は一面に和紙が張られています。
それも1階から2階までのほぼ全ての壁紙が和紙で出来ているのです。内壁、通路、客室にまで至る所にこの和紙が使われています。
使われた和紙は、このプロジェクトのために五箇山の和紙職人達が集結して作り上げました。使われた和紙の数はなんと1万枚以上!
和紙には、白岩の田んぼのお米から出たもみがらが埋め込まれています。
酒蔵の中にはシェフが腕を振るうためのキッチンも用意されています。
「IWA5は料理とのペアリングを楽しむ日本酒。ゲストシェフによる料理とIWA5を楽しむようなイベントを開催していきたい」とのこと。
圧巻の醸造用タンクの意味
ここの醸造用のステンレスタンクは、ジョフロワ氏が京都 三十三間堂を訪れた際、国宝の千体千手観音立像に深く感銘を受け、その並びをイメージして配置されました。
「タイプの異なる原酒を”アッサンブラージュ”する」という、多くの種類の原酒を必要とするIWA5の特性上、32本の醸造用タンクが並びます。これだけの数が並ぶ様は圧巻です。
この他にも貯蔵用のタンクが別に15本、ブレンド用のタンクが5本あります。「アッサンブラージュは全てジョフロワ氏がするので、日本への渡航によるタイムラグなども考えて大量の貯蔵タンクが必要」なのだそう。
新しい蔵からの初リリース
蔵の2階には精米機、蒸し器、冷却機などの設備が備わっています。他にも麹室、生酛部屋、さらに宿泊用の部屋がこの建物の中に入っています。
仕込みのシーズンになると蔵人たちは朝の6時から仕込みを始めます。
美味しい日本酒でついつい深酒しても、朝はゆっくり寝られないかもしれませんが、それも「一つ屋根の下」の良さですね。
まだ所々にブルーシートの残る真新しい蔵でしたが、富山の文化・歴史、白岩の風土が最大限に表現されていました。
この新しい蔵で初めて仕込まれた日本酒 『IWA5 assemblage 4』のリリースは2023年の夏頃です。
どんな日本酒に仕上がっているのか、今から待ちきれません。
(この記事はOPENSAUCE元メンバーによって在籍中に書かれたものです)