- 書名:天食
- 著者:泉昌之
- 発行所:晋遊舎
- 発行年:初版2009年 2011年代刷
泉 昌之は、久住昌之が原作を担当し泉晴紀が作画する2人からなる漫画家コンビのペンネームだ。久住昌之はあの「孤独のグルメ」の「久住昌之」だ。孤独のグルメでは作画を亡くなった谷口ジローが担当していた。
トレンチコートにボルサリーノの男がハードボイルドに食堂を旅する、漫画誌「ガロ」で発表された「天食」。出てきた作り置き天ぷら定食に立ち向かう男の悲哀と旅情。
漫画ゴラク系で連載された。何故か現代に生きる侍が大暴れするジャンクフードマンガ「食い改め候」。侍は日々ジャンクな荒野を彷徨い、町中華で氷とサクランボの入った邪道「冷やし中華」に裏切られ、マルちゃんの冷やしラーメンにジャンク道を求め、カレーを作ってはボンカレーに負ける。
コミックTENCHUに掲載された、マナー違反上司の生態を描く「ブギ・ウギ・オヤジ」。このオヤジはグルメブームの「見出し情報」が生み出したのだろう。その浅さと誤解力はすさまじい。日本人の「写鏡」だと思う。
この本は2000年前後に発表されたこれらの作品で構成されている。
発表から20年を過ぎた作品ばかりだが、その笑いが古くならないのはなぜだろう。日本の食堂あるある、レストランあるある、ワインバーあるあるが、未だ変わっていないということか。それとも日本人が変わらなかったのか、はたまた退化したのか。そんなことを考えさせる、ある意味「不条理漫画」である。しかし、そこにあるのは斜めに食を語ることではなく、単なる「フツーにおいしい物」を食べそびれたアホな男たちの憤懣と叫びであるところが泉昌之である。
現代のグルマンと呼ばれる人たちは、この本を読んで自分たちがなんら日本の食文化の形成に貢献していないことを知るべきだ。おしゃれなもん食ってるうちに日本の食の荒野は広がっているのだよ。
それは、侍が「西洋水産 マリちゃんの天ぷらそば(たぶん既存のアレのこと)」袋麺を食べてつぶやいた次の一コマが言い当てている。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。