2021.04.27

鯉と料理と高校生

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少し前までは桜に見惚れていた時季でしたが、菖蒲の季節がやってきました。日本料理において5月は、いわば夏の始まりです。

冬の間、茶席では炭をくべて茶釜で湯を沸かしていた炉を閉じて、その上に風炉を置き、茶事のあらゆる道具が夏のしつらいになります。

五月五日の端午の節句は菖蒲(尚武)の節句とも言われ、江戸時代は武士の間で盛んに祝われたそうです。この時期に、蔵に納めていた武具を出して、虫干しする習慣から、鎧兜を飾る習慣になったとも言われています。

菖蒲を愛でるのも、その葉自体を武士の刀に見立てていたからだとか。勿論、蒸し暑くなる時期の菖蒲の効用も理由の一つかもしれませんが。

この端午の節句から誰もが真っ先に連想するものは、鯉のぼりではないでしょうか。5月になると日本中の至るところで大小の鯉のぼりを見ることができますが、これは「急滝を登った鯉は龍になる」という中国の故事にちなみ、男児の立身出世の願いを込めていると言われております。「登竜門」という言葉の語源も実はこの辺りから出てきたとか。

鯉は古くから観賞用としても愛されてきました。金沢の兼六園の霞が池にも、彩り鮮やかな鯉がたくさんいます。環境の変化にも比較的強い鯉は、水の流れが殆どないような庭園の池にはぴったりなのでしょう。勿論、色鮮やかな鯉自体が庭の景色の一つとして多くの人々を魅了してきたことは言うまでもありません。

当然ですが、食用としても長い歴史があります。日本のみならず、中国や欧州、特にドイツやチェコなどでは冬の名物料理として、蒸し煮や唐揚げ、ビール煮などの鯉料理があります。日本料理においては洗いや鯉こくなどが代表的な料理ですが、私は寒鮒のように鱗や内臓をつけたまま、甘辛く炊いた煮付けにも惹かれます。

いま鯉は川魚料理の専門店でないとなかなか使われない食材になっていますが、実は一昨年の夏に私は、意外な場面で予期せぬ鯉料理で驚かされたのです。

金沢市主催の 全日本高校生WASHOKUグランプリという高校生による日本料理のコンテストがあり、私は実行委員長と審査委員長を拝命しております。

全国高校生WASHOKUグランプリ2019

日本料理の伝統や技術の継承のために私が提案したアイデアが基になって作られたこの大会は、日本在住の高校生であれば誰でも参加できるもので、一次審査には100チームを超えるエントリーがありました。それは高校生の料理コンテストとしては異例の応募数だったとか。

1次審査である書類審査を経て、8チームが金沢に集まり、A_RESTAURANTにおいて決勝戦が開催されました。その日はフレンチのドミニク ブシェ シェフ、龍吟の山本征治シェフ、金沢学院大学の原田教授、そして昨年末に急逝されたつきぢ田村三代目田村隆シェフ、そして私がジャッジを務めました。

北は北海道、南は沖縄から集まった高校生たちは、その殆どが初めて訪れた金沢にて存分に練習してきた料理を披露してくれました。長時間にわたる厳密な審査を経て、優勝したのは長野県野沢南高校の女子2名のチームでした。

長野県野沢南高等学校  佐久鯉人倶楽部

彼女たちが作ったのは、地元の佐久鯉を使った料理で、聞けば彼女達のお母さんから習った料理だとか。最初は鯉料理と聞いて、「いくら地元ネタでも高校生に鯉は難しいだろうな」と思いましたが、彼女達は現役の一流料理人を揃えた審査委員たちを母親から伝授された料理で唸らせたのです。それは、プロの料理人だけではない、料理の継承を垣間見た瞬間でした。

石川県金沢市「日本料理 銭屋」の二代目主人。
株式会社OPENSAUCE取締役

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