- 書名:コーヒーの人 -仕事と人生-
- 著者:大坊勝次 田中勝幸 國友栄一 濱田大介 松島大介さん+加藤健宏 numabooks編
- 発行所:フィルムアート社
- 発行年:2015年
コーヒーに情熱を注ぐ年代も違う6人のプロフェッショナル、大坊珈琲店の大坊勝次さん、bear Pond Espressoの田中勝幸さん、OMOTESANDO KOFFEE(現KOFFEE MAMEYA)の國友栄一さん、Little Nap COFFEE STANDの濱田大介さん、Paddlers Coffeeの松島大介さん+加藤健宏さん。コーヒーのすごい人たち、を深掘りしたって感じのインタビュー本。下北沢のビールが飲めて毎日イベントやっていることで有名な「本屋B&B」の内沼晋太郎氏がまとめている。
この本が出る2015年の少し前から、東京のコーヒーロースターやコーヒー専門店を毎週回るのを依頼のない仕事としていた時期があるので、ここに並ぶ方々のところはほぼ伺ったことがある。よって内沼氏の人選の意味がよくわかる。とはいっても行ったことがなければわからないという内容でもない。これはコーヒーの本ではなく、読めば誰もが引き込まれる、仕事と人生の本だからである。
内沼氏は「ア・フィルム・アバウト・コーヒー」という、サードウェーブという言葉が最新のワードになりブルーボトルコーヒーが日本にやって来る前年の2014年に作られた米映画の配給に携わったが、そこで取り上げられた日本のコーヒーに関わる人たちの扱いに不満を持ち、この本を作ることになった。
自分が最年長の大坊氏の店を初めて訪れたのは40数年前だったから、できてそんなに経っていなかったかもしれない。2013年に閉店する時の数ヶ月は全国から最後のコーヒーを飲むために人々が訪れた。髪は白くなったが手回しで焙煎するやり方や、ネルドリップのスタイルは40年前と変わっていなかった。そして、ブルーボトルコーヒーの創業者ジェームズ・フリーマン氏は大坊氏のハンドドリップに感銘を受けて、エスプレッソだけではなくハンドドリップでの提供を行うようになったのだ。
いろんな業種を渡り歩いたOMOTESANDO KOFFEE(KAFFEE MAMEYA)の國友栄一さんは当初、原宿の古民家の座敷の真ん中に大きなエスプレッソマシンを置いてテイクアウトでコーヒーを提供し、行列ができる店となっていた。ほどなく閉店の通知が来たが、しばらくして豆を販売する専門店となっていた。豆の仕入れ、焙煎を国内外それぞれのプロに任せた。漢方薬局のようなスタイルで客一人一人のカウンセリングをしながら丁寧に豆を選んでいく。後ろで待つ客がいても対応に30分もかける。豆専門になった時「なぜコーヒーの提供はやめたのか」と聞いたら「サービスをしながら焙煎を行うのはどちらかが片手間になるので無理だと思った。それぞれのプロが行うものをちゃんと伝えながら提供したい」と話してくれた。
Bear Pond Espressoの田中勝幸さんは日本の広告代理店からアメリカの大学に入り、NYの広告代理店に勤めた。フェデックス社に移り、その間にバリスタの認定を受け、退社後下北沢に小さなスタンドを構えた。
人生に対峙するようにコーヒーに対峙する。どっちが先かわからないが、そんな人たちのロングインタビューは面白い。
コーヒーは丁寧に入れなければただの黒いお湯だ。この本は丁寧に生きることを考える本かもしれない。
おまけではないかもしれないがFuglen Tokyoの小島賢治氏によるイラスト付きコーヒーの淹れ方が載っているのもうれしい。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。