2021.10.29

古谷暢康 最初に読む料理本【私の食のオススメ本】

古谷暢康の本

  • 書名:最初に読む料理本
  • 著者:古谷暢康 監修・料理
  • 発行所:時雨出版
  • 発行年:2019年

これはレシピに依存しないことを目的としたレシピ本だ。初っ端から「この通りにつくれというレシピ本ではない」監修と料理を担当した著者・古谷暢康は言っている。

基本の考え方は
料理がへたな人はいない。
素材こそすべて。
足し算ではなく、引き算。
無駄を省いて手間をかける。

10代で渡欧し、ミュージシャンとしての活動後、神奈川県・丹沢で猟と食に携わるという経歴をもつ著者のレシピはシンプルなゆえに哲学的でもあり、余計なものが削ぎ落とされた禅の世界観のようにも見えてくるが、これまたシンプルなゆえに旨そうなのだ。

かといってハードルが高いわけでなく「スープと汁物 いい素材を選んで、出汁を味わう」とか「豆腐 肉いらずで、手軽にお腹を満たす」とか「ひとつの野菜でいろいろ作ってみる」とか、シンプルにタイトル通りの実践を促す。

若くしてヨーロッパを歩いた人らしく、そのレシピの国籍もたのしい。日本のけんちん汁ラーメンスープがあるかと思えばブルガリアのパタートニックというジャガイモ焼き、トルコのピヤズという豆サラダ、肉を入れない麻婆豆腐、ポルトガルの卵料理であるパタニシュカシュなど盛りだくさん。

料理が下手な人はいないと本書の初めに書いた著者は、<難しいことはない。簡単なものから作りはじめればいい。食べたいものをつくればいい。『料理をすることは生きることだ』>と巻末で結んでいる。

追記1:時雨出版の代表・温野まき氏はこの本を出すために出版社を立ち上げたそうです。環境を考え、表紙カバーは劣化すると粉々になり、マイクロプラスチックとして海洋汚染に繋がるPP貼りをやめ、ニス加工にしてあります。
本書はISBNは取得していますが、時雨出版による直販のみの販売です。今後はこのような出版社が増えるのでしょう。

追記1:料理好きでも食いしん坊でも、料理を考えるということが辛くなる時がある。そこから逃げることも生きるための術である時がある、というのは生活史研究家・阿古真理の本で確認。こちらも読むことをおすすめします。
料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。

最初に読む料理本表紙
くらしのたのしみ より
WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。