- 書名:発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ
- 著者:小倉ヒラク
- 発行所:株式会社KADOKAWA
- 発行年:2020年初版 2021年5版
この本の紹介をするには著者の紹介が最適だと思う。小倉ヒラク 1983年生まれ。(自称?)発酵デザイナー。大学で文化人類学を学ぶ。在学中に絵の勉強にフランスへ。卒業して企業に就職するも、デザイナーとして独立。甲府の老舗味噌屋『五味醤油』のホームページなどを制作。
東京農大名誉教授、小泉武夫氏と出会い、研究生として発酵を学ぶ。アニメ「手前みそのうた」を五味醤油と制作。甲州市の山の上に発酵ラボをつくり、菌を育て微生物の研究をしている。2019年には「発酵ツーリズム」と称した、全国の醸造家や生産者を訪ねて発酵文化を生で学び、味わうツアーを開催。2020年東京・下北沢BONUS TRACKに民家のような「発酵デパートメント」をオープン。
と、データからプロフィールを書いてみたら、ジワっと面白そうな発酵臭が出てくる。「発酵」に関する書籍は小泉武夫先生ばかりでなく数限りなく発刊されているけれど、最初に読むなら寝転んで読めるこの本がいい。
軽妙な、とてつもなく軽ーい文体の中にレヴィ=ストロースのブリコラージュという器用仕事の概念に、発酵文化と醸造家を置換してくる。さらに絵を学んでいるのでアートとも置換してくる。これが発酵文化人類学だ(と思ってしまった)。
参考文献のネタもとを、ヒップホップで言うところのサンプリングのようなものだ、と其々ゆるく解説もつけているあたりが寝ながら読める所以だ。
麹、餅麹、糀、微生物、麹菌。ビールにはじまり、ワイン、日本酒、味噌、醤油、お酢・・・の化学的、文化的解釈。
読者は知らないうちに文化人類学を麹や微生物によって学んでもいるわけだ。しかしながら社会に出てから発酵にハマり学んだ著者なので、自分の素人体験を例に誰にでも分かりやすくその面白さを解き、発酵の未来に導く。
もう一つ興味をひくのは、この文庫本の解説をEXILEのダンサーである橘ケンチ氏が書いていることだ。橘氏は日本酒のプロデュースなどでも活躍しているので不思議ではないのだが、彼は書店のおすすめコーナーでこの新刊に出会う。それ以降、著者の名をよく聞くようになり最後には対面となった。「こんな先生いたらいいなぁ」というのが発酵と小倉ヒラクに惹かれてしまった人間の感想だ。
著者は、発酵はオープンソースだ!シェアすること、オープンであること、立場を超えてリスペクトし合うこと、という。正しくインターネット世代が生んだ発酵菌たちのエヴァンジェリストなのだ。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。