- 書名:沢尻リラさんの家庭でつくる地中海料理
- 著者:沢尻リラ
- 発行所:角川書店
- 発行年:2017年
行きたかった料理店に西荻窪にあった『リラズ・テーブル』がある。2007年に閉店した地中海料理のレストランだ。沿線に住んでいた友人に誘われていたが行けず仕舞いになってしまった。
このレシピ本は閉店から10年後に発行された。著者・沢尻リラさんの娘で女優の沢尻エリカ氏が再人気となった頃で、そういうことも含めて企画されたものなのだとは思うのだが、アルジェリアで生まれパリで育ったリラさんの家庭の思い出がコメントに滲みでていて実にほっこりするレシピ本のひとつになっている。
著者のリラさんはパリで過ごしていた20代の時に日本に嫁いできた。それからの40年は家族やレストランのゲストのために料理を作り続けてきたという。
地中海文化圏は南フランス、イタリア、スペインからアルジェリア、モロッコなどの北アフリカにも及ぶ。温暖な気候と歴史背景から生まれた料理をリラさんは日本で作りやすいようにアレンジを重ねた。
お店でも「家族を繋ぐ地中海のおうちごはん」はリラさんの人柄と相まって人気となったいたようだ。
リラさんは人生がいい時でなくても「料理をいっぱい作ると不思議といいことが舞い込んできます。必ず幸せがやってくるんです。」と語る。ここには家族の絆をつないでくれたそのレシピが載っている。
よく目にする名前や口にする料理のレシピも多いのだが、代々伝わってきたであろうコツや独自のアレンジのコメントが料理にかき立てる。
沢尻家には二つのパエリアがある。高価なサフランを使わずターメリックでお米に色付けし、野菜をたっぷりのせ干しエビを効かせた家族も喜ぶ「ふだんのパエリア」と、サフランをひと瓶使って極上の香りでお米も輝く、骨付き肉や大きなエビをトッピングした一皿でパーティーが始まる「おもてなしのパエリア」。
たまには賑やかに贅沢にというリラさんのレシピは、どうやったら家族が喜ぶかということで出来上がっているようだ。
思いのないレシピはいくらあっても誰にも伝わらないのかもしれない。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。