皆さんも、こんな経験があるだろう。
日本酒が余る、ということが。
なんかの拍子にお土産で貰ったりして、日本酒が家に一瓶、ほぼ手付かずであるようなことが。
「いい酒なんだろうけど日本酒そんなに飲まないし」ということもあるし「飲んでみたら不味くはないんだけれど自分には合わない味だった」なんてこともある。
安酒なら流して棄ててしまうのだが、瓶酒というのはなかなか棄てられないものだ。
そして料理用の日本酒として第二の人生を送ることになるのだけれど、料理にそんなに使うわけでもないからこれがあまり減らない。我が家でもアサリの酒蒸しなどを試みるが、そう減るものではない。
東京などを除く地域では緊急事態宣言が解除されたとはいえ、それでも外で飲みに出歩くことに躊躇もあるかと思われる。
そしてなにより、STAY HOMEによって家の快適さに目覚めてしまったという人も私の周りでは少なくない。家飲みは酔ったあとに帰る面倒さがない。
せっかくだから家でのお酒ライフを充実させたい。でも、出かけるのは面倒だ。
そうだ、あるじゃない。
貰い物の日本酒が!料理酒と化したあの日本酒が!
Stay Home but…I’m in a drinking mood !!!!
そこで余って料理酒にしようとしている酒を「自分好みのカクテル」にして飲んでしまおうというのがこの記事の趣旨である。
さて、家でカクテルを作ろうと冷蔵庫などを見てみたが、いわゆる「ワリモノ」も何もなかった。
そこで近くのコンビニであるものを調達するというのはアリという新ルールを定めることにした。
コンビニに行ってきたのだが、買ってきたものはトマトジュースと炭酸水。
私の近所のコンビニには、ミントや枝のローズマリーなどなかった。トニックもなかった。
もし枝のローズマリーが手に入ったら、それを日本酒とシェイカーに入れて、香りをつけようと思ったのに。
トニックも売っていなかった。
トニックと炭酸水の違い
そういえば、トニックと炭酸水の違い、ご存知だろうか。
私が昔二丁目のゲイバーで働いていたときのことだ。その店では「トニック割」は炭酸水で出していた。
ガムシロップをちょっと隠し味に入れた炭酸水をトニックと呼んでいたのである。
ある日、ママに私はこう言った。
「トニックは甘い炭酸水じゃなくて、もともとハーブとか柑橘を原料にしたもので、古くはマラリア予防に効果があるとされたキニーネを入れたりとかした全然違うモノ…」
「いいのよ!双子の兄弟よ、双子!シュワシュワしてたらアンタ同じよ!」
しかし、後日ママは違う店で
「トニック割ね!ちゃんとトニックよ。原料が違うんだから、片方ハーブなんだから。あんた炭酸と違うのよ全然!」
と、オーダーしていた。
案外みんなトニックと炭酸水の違いは知らないものなのかもしれない。
さてトニックがない今、ママが約20年ぶりに降臨してきた。
「双子よ、双子」
そうだ。我らがOPENSAUCE代表の宮田さんもよく言っているではないか。
「みっちゃん、誤差すよ。誤差」
そうである。誤差だ。
ミントはなかったが、なぜか三つ葉は置いてあった。見た目的にはミントの代わりに添えたりできるのではないか、
三つ葉はミントの代わりになるのか。誤差か。
心の宮田さんがこう言った。
「みっちゃん、それはデザインの悪用ですよ」
いけない、冥府魔道に落ちるところだった。
そしてコンビニで製氷された氷も買い忘れてしまった。雨も降っているし、2回買いに行くのは面倒くさい。
「テキトー家飲み」なので家のものをできるだけ使ってみようと思う。
日本酒をつかったカクテルなんてあるのか
実際、酒を使ったカクテルというのは存在する。
一番簡単なのは、サムライ・ロックというもの。
レシピは日本酒45ml程度にカットライムを1個入れた単純な作りだ。
甘ったるい、あるいは吟醸香といわれる日本酒独特のにおいが苦手だという場合は、ライムが酒独特の香りを抑えて飲みやすくなる。
しかし、ライムがコンビニにはなかったのだ。
他にサケティーニも日本酒ベースのカクテルである。
ドライ・ジンを日本酒にかえたカクテル。
日本酒約50mlに対してドライ・ベルモット10ml、パール・オニオンを入れて最後にレモン・ピールを絞るのが公式レシピだが、正直なところ普通の家にベルモットは常備されていないし、酒の味に左右されていて味が安定したレシピとは言い難い。
そこで私は以下の3種をご紹介したい。
我が家のズボラカクテルバー、開店である。
レシピ1 サキニック & サケ・テキトニック
サケのトニック割で、SAKENICというのだが、海外の人はこれをサキニックと発音することから、サキニックが定着している。
サキニックのレシピ
- 日本酒 : 60ml
- 炭酸水 : 30ml
- トニックウォーター : 30m
- オレンジピール : ツイスト推奨
これが本来のレシピであるが、トニックがないので炭酸水で代用する。
もちろん、トニックウォーターで全て割るのも常道だ。
こういう時、どうするのかというと「トニックがハーブや柑橘類で作られている」のだから柑橘やハーブの香りを足してあげればよい。代用になるのか、代用にはならない。
蒼井優と黒木華は似ているが、全く違うのと同じだ。
アンゴスチュラビターを入れるのが理想的だが、私の家にはそんなものは常備していない。
そこで「誤差ですよ、誤差」といいながら作るのだ。
そこで以下の感じになる。
サケ・テキトニックのレシピ
- 日本酒:60ml
- レモンの皮を絞ったもの炭酸水:60ml
- オレンジの皮:あればなおよし
とした。
①氷を沢山いれる
②炭酸水しかなければ、レモンの皮を絞る
③軽くステアする
(マドラーで氷をもちあげるように上下を1、2回してまぜる。ガシャガシャ音をさせると薄くなるので注意)
できあがり。非常に簡単である。
香りづけにオレンジの皮を最後に入れるのがおすすめ。
好みによってはグラスに氷を入れたあと、少量のジンを入れておいてからそれを捨てて(バー用語でリンスという)から日本酒を入れるという手順もオススメできる。
レシピ2 ブラッディ・ヒミコ
ブラッディ・メアリーというカクテルがある。
私が人生で一番最初に飲んだカクテルがこれだった。
イングランド女王のメアリー1世がプロテスタント弾圧で処刑を行って「血まみれメアリ」と呼ばれたことに由来する。
赤くて血が連想されただけで、特にメアリ1世とは関係がない。
ブラッディ・メアリのレシピ
- ウオッカ 40° : 45ml
- トマトジュース : 100ml
- レモンジュース : 5ml
- 塩、胡椒、タバスコ、セロリソルト : 少々
- ウスターソース : お好みで
これがオーソドックスなブラッディ・メアリの作り方である。
この酒の部分を日本酒に変えるだけの完全に適当なレシピ。名前もメアリ1世ではなくてたった今思いついたので、適当に卑弥呼にしてみた。
そういえば『魏志倭人伝』の記述によれば卑弥呼の姿は弟しか見られなかったといわれている。つまり卑弥呼は、宮殿なり祭殿なりから外に出られなかったと解釈できるだろう。
まさに元祖STAY HOMEではないか。
よし、この名前はブラッディ・ヒミコで決まりだ。
ブラッディ・ヒミコ(仮)のレシピ
- 日本酒 40° : 45ml
- トマトジュース : 80ml
- 塩:少々
レッツスタート
日本酒を入れ
※カクテルは、比重の重いものから入れていくのが鉄則
トマトジュースを入れてから、しっかりステア。氷がガシャガシャいうと氷が溶けて薄まるので、静かに、しかし しっかりと氷を持ち上げて混ぜる。
隠し味はOPENSAUCE代表の宮田さんから貰った謎の塩。「これ、あげます」と一言いわれただけなので、どういうものかはよく知らない。
非常においしい謎塩を少々。
できあがり
日本酒とトマトは相性が悪そうに思えるけれども両方とも「アミノ酸」で相性がいいのである。
レシピ3 謎カクテル 酒茶論
戦国時代に臨済宗の蘭叔玄秀和尚が書いた『酒茶論』というものがあり、酒好き上戸の忘憂君と下戸で茶好きの滌煩子とが酒と茶のどちらが優れているかを言い争うという内容になっている。
この酒と茶を合わせてしまおうというのが、このカクテルだ。
なんとなく思いついて作り始めて10年は経っているが、私の思いつくことは誰かが思いついているはずで、もしかしたら最早オリジナルカクテルでないかもしれない。
この酒と茶を合わせてしまおうというのが、このカクテルのネーミングの始まりである。
用意するものは
- 緑茶の茶葉 : 10g
- 日本酒 : 160ml前後をカスタマイズしながら
こちらは静岡産の深蒸し茶。関東の人は深蒸し茶を好む傾向にある。お茶はどこ産でも構わない。
急須に氷をみっちりいれまして
茶葉を入れ
酒を注ぎ
あとは2分間、心静かに急須を反時計回りに回す。
右利きの人は反時計回りが楽なはず。左回しにすると、急須の口から酒がでてくる。
そういえば、急須の口にゴムをつけたまま使っている人はいないだろうか?
アレは運送するときに急須の口が欠けないようにするためのもので、買ったら取ってしまっていいものなのである。
アレがついているからといって、お茶を注いだ時にキレがよくなるなどということは一切ない。むしろキレの邪魔をしているくらいだ。
このカクテルは急須をシェイカー代わりに使うという画期的なズボラカクテルである。
ポイントというほどのことではないが、茶漉しが金属でない急須をオススメしたい。
金属だと色がきれいな緑色にならないことが多いのだ。
さて、作ってみよう。
ぐるぐる…ぐるぐる(2分経過)
できました。
日本酒と緑茶とはアミノ酸の主体(グルタミン酸、アルギニン、セリンなど)がかなり似ているため、相性がいい。
特ににこれは甘すぎて、あるいは酸度が高すぎて口に合わなかった、といった日本酒を用いるのがおすすめである。
あえてこのためにいいお茶はないかといわれたら、玉露か かぶせ茶がオススメである。
高級なお出汁のような、旨味の凝縮されたまさに日本的なカクテルになる。
あとはグラスを変えたり、装飾にちょいちょい色々なものをつければ、人前に出せるオシャレな見た目になる。
サケ・テキトニックならオレンジピールをいれるだけで見栄えが全く変わる。
この酒と茶のカクテル、酒茶論ならばザクロから作ったグレナデンシロップを逆三角形のマティーニグラスの底に数滴入れておいて、そこにこのカクテルを入れると色のグラデーションが美しくなる。
退屈な時間を、有意義な時間に。
みんなのメディア、OPENSAUCEのRiffより愛を込めて。
私は、だいたい数日に一食しか食べない。一ヶ月に一食のときもある。宗教上の理由でも、ストイックなポリシーでもなく、ただなんとなく食べたい時に食べるとこのサイクルになってしまう。だから私は食に対して真剣である。久々の一食を「適当」に食べてなるものか。久々の食事が卵かけ御飯だとしよう。先に白身と醤油とを御飯にしっかりまぜて、御飯をふかふかにしてから器によそって、上に黄身を落とす。このときに醤油がちょっと強いかなというぐらいの加減がちょうどいい。醤油の味わい、黄身のコク、御飯の甘さ。複雑にして鮮烈な味わいの粒子群は、腹を空かせた者の頭上に降りそそがれる神からの贈物である。自然と口から出るのは、「ありがたい」の一言。