2023.05.24

まんがダンチュウ
【私の食のオススメ本】

  • 書名:dancyu 2023年6月号 特集 まんがダンチュウ 
  • 発行所:プレジデント社
  • 発行年:2023年 

RIFFにおいて雑誌の紹介をすることも増えてきた。『dancyu 2023年6月号 まんがダンチュウ』の紹介の前に、一般の人が手にしやすいこの二つのメディアについて(個人的な視点だが)書いておきたい。

『料理通信』と『dancyu』はその在り方として違う地点に立っているのだが、どちらも、人を「あらゆる食の世界」へつないでいってくれ、食を知り、考えるには重要なメディアだと思っている。

行き先を変えた『料理通信』という船が導く「食」

雑誌『料理王国』を他スタッフとともに離れ料理通信社を設立、2006年『料理通信』を創刊した君島佐和子氏(現編集主幹)は紙での出版に終止符を打ち、2021年からWEBメディアに移行させた。<時代に消費されない本質的な「食の知」を目指して様々なコンテンツを届ける>ことを追求する。紙媒体後期から君島氏は食の未来を憂い、その頃からKURKKU FIELDS(クルックフィールズ)との連携企画などを始め、SDGs、オーガニック、ヴィーガンなどを重きをおいた方向へ舵を切り始めていたように思う。

紙時代全盛期には定期的なシリーズ「小さな店のつくり方」特集がヒットし、他店の人気の秘密やアイデアと開業資金の内訳を覗き見ることができ、全国に素人カフェオーナーも作り出していった。誰もが手に届きそうな夢が見れる参考書えもあった。成功して多店舗展開をしている居酒屋もある。しかしその夢が続いている店はどれだけあるだろうか。いま考えるとの(君島氏の、編集部の)本意ではなかったのではないかと疑問に思う。

現在のWEB『料理通信』で取り上げてる記事の情報密度は深く濃い。国内外の食のプロや生産者、レシピも含めたSDGsに関わる取材など<食について知りたいもの、知るべきもの、伝えたいことがある>という気概が伝わる、編集者の矜持を感じるメディアになっている(編集者も時代に消費されてはいけないのだ)。

dancyuという「うまいもの好きが」救う市井の食文化

方や『dancyu』編集長の植野広生氏は”食べること”と”食べ物”と”食べさせてくれる人”が好きなのだと思う。そしてその見せ方、プロデュース力は業界一だろう。発酵数10万部を維持し、WEBとの両立てで発信している。自身をもキャラクターにし、TV番組、イベント、店舗と展開しているが、すべては”うまいものを食べたい” “うまいものを残したい”に還る。

編集長キャラからも少し浮ついているように見る人もいるかもしれないが、デートマニュアルのような情報誌とは違い、取材はなかなかの骨太だと思う。それは新聞記者出身の植野氏とバブル崩壊後に入社した経済誌出身の前編集長・江部拓弥氏(現あまから手帖編集長)によって培われてきたものだと思う。

2017年編集長になった植野氏はdancyuが新たなスタートを切るにあたり「美味東京」という特集をした。それは「予約が取れない店」ばかりがフィーチャーされ、そこに行くことをステータスとする“食通”が増えていることに対する、ちょっとしたアンチテーゼ」でもあった。

「とっておきの<予約が取れる店>裏名店巡り」な特集。植野氏は「『予約が取れる店』を紹介したら、すぐに『予約が取れない店』になるではないか!」という指摘に「紹介した店は、いずれも仮に予約が殺到したとしても、無理に予約を(何ヶ月待ちのように:筆者注)取らず、従来通りのペースを守り、丁寧に対応してくれる店だと思っている」と、ひとつの選択基準とした。

その時のことを植野氏は<dancyuという雑誌に人格(?)を持たせたら、どのような食の楽しみを提案するのか、を考えていきたいと思っている。今回の「美味東京」でも、「食いしん坊の友人から『東京で旨いもの食べたい!』と言われたらどうするか」を基準に本音で店選びをした>と書いている。

植野広生という人は<うまいもの>をシンプルに<伝えたい>のだと思う。うまいものは予約の取れない店にだけあるわけではない。数年で閉店する人気店も多くなってしまったいま、町の片隅の食堂や料理店にこそ”それ”は残り続けている。そこをきちんと掘り続けるメディアや編集者がいることがありがたい。

『料理通信』と『dancyu』、こういうメディアを作り続けていることに個人的には感謝している。企画とお金があっても簡単には作れないことを自分は知っている。

まんがダンチュウ

さて、漫画家とコラボした『dancyu』が登場した。植野編集長は特集の初めに「まんがで 学んだ。」と書いた。どの漫画で<食の>何を知り得たか、とうとうと語っている。その内容には「そうそう」と頷く人が多いはずだ。本書を入手してぜひ読んでもらいたい。

まんがレシピでコラボする漫画家や原作者のチョイスが良い。『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之氏は富山の名居酒屋『舞子』を訪ねている。『凪のお暇』のコナリミサト氏は『洋食KUCHIBUE』のからあげ。『目玉焼きの君いつつぶす?』のおおひなたごう氏は『浅草洋食 グリルランド』のオムライス。『酒の細道』のラズウェル細木氏は自作の料理で『つまみの細道』。

(ただ、『クッキングパパ』のうえやまとち氏が漫画コラボではなく、オリジナル「丸鶏ラーメン」を10ページに渡り福岡の仕事場で作っているのだが、ここまでの取材とページが必要だったのかが疑問であり少し残念ではある。)

そして、あの一条ゆかり氏も自ら登場して、驚いたことに『日本橋 寿司金』で江戸前の握り寿司を習う。(長期連載漫画『有閑倶楽部」の主人公たちはの名前はすべて日本酒の名前であり、料理好きの一条氏は有次の名前入り包丁を持っている)

漫画を見てステーキが焼きたくなったのは『ミスター味っ子』の寺沢大介氏が『イル・ジョット』の高橋直史シェフからそのテクニックを学ぶ漫画だった。

実は高橋シェフ、建築家を目指すのをやめて料理人になりたての20代前半の頃、自分が青山でこっそりやっていた深夜のバーで少しの期間手伝ってくれていたのだ。広尾のイタリア人オーナーの大型店の厨房で、行くたびにポジションを上げているカッコいい彼を見つけて仲良くなり、店終わりにバイトにやってきてパンチェッタサルシッチャなんかを仕込んでくれていた。

ステーキ肉は厚さで選べ。肉は冷蔵庫から出したてを使え。焼き油は無味無臭を選べ。塩は計らず好きなだけ。たっぷりの油で焼き上げろ。目からウロコ的な内容を寺沢大介氏が『ミスター味っ子』風に展開するのだが理由も知れて納得。

なぜか長年、毎回行く機会を逃し店にはまだ行けていない。コロナ禍も明けたのでぜひ伺いたい。まずは高橋シェフの焼いた肉を確かめてから、自分でやってみようと思う。

そして、2019年12月、コロナがやってくるギリギリ前にキッチハイクの共同代表山本雅也氏にも同行してもらい、編集部チームで取材していた『味坊集団』の梁宝璋氏が漫画で登場したのには驚いた。いまではさまざまな中国東北料理の業態で10店舗を運営するグループだ。(RIFF記事のリンクは文末に)

実際に教えてもらい漫画でコラボしたのは『いつかティファニーで朝食を』のマキヒロチ氏。もともと『味坊』のファンだという。定番のラム肉の水餃子に挑戦している。(以前から思っていたのだが、手作りの皮は美味しいが、水餃子がもっと家庭で流行って、水餃子用の皮も手軽に買えるようになるといい)

そして、野菜料理『七草』の前沢リカ氏がお気に入りの漫画『三月のライオン』で、次女のひなちゃんの初めて好きな人につくるお弁当のシーンを語るページなども用意されていて、食と漫画愛が満載。全体に読んでいてホッとする内容が多くうれしい。

専門家へのレシピはフェラン・アドリア氏の「エル・ブジのレシピブック」のように化学の本のようでもあっていかもしれないが、(漫画でなくても)こういう料理人の人柄も見えてくるレシピの方が、一般の愛好家には料理の持つあたたかさと共に長く伝わっていくのではないだろうか。


RIFFは2019年12月に味坊グループの代表、梁宝璋氏を訪ね、創業の経緯とその味の原点を取材していた。記事はこちらから

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。