2019.10.31

チェコ料理「記憶と記録」のレシピ

金沢レストランドゥブの店内で料理する柏オーナー

私のレシピ物語金沢・チェコ料理店  柏照康氏

生まれも地元も金沢で、母親も祖母も昔、新天地でお店をやっていたこともあって2014年に同じ新天地でチェコ料理店を始めました。その前は1年間のチェコ修業旅のあと、本当にチェコ料理だけでいいのかというものあり、大使館の料理人になりロシア、ブルガリア、ハンガリーと向こうの国の日本大使館で働いていました。

30歳くらいまで日本で仕事していて、それからは海外の方が多いくらいでした。よく「人生、歳とるとどんどん時が短くなる」と言いますが、全く知らない新しい場所に行ったら、30代という期間は良い意味でとても長かったです。
普通は”慣れ”が時間を短くするのでしょう。特にチェコでは言葉もわからないゼロからのスタートだったので長く感じました。同時に未知のレシピの記録が始まりました。

文化あるところに料理あり。世界遺産で選んだ修業国。

金沢レストランドゥブの店頭看板

私は高校卒業後、地元の金沢調理師学校に入りました。

96年に学校を出てからは、全国の都市にある半官半民みたいな会館施設に就職して、そこにはけっこう長いこと居たのですが、ちゃんと料理をしたいなと思った時に、人がいなくなって、調理にどんどん既製品とかを使うようになって、嫌だなぁと思うようになってきてしまいました。

そこで、街場のお店で働きたいという気持ちになり、20代後半に市内の『ラ・ヴィータ』というリストランテのオーナーシェフ・中森慎吾さんに出会って、2年間働かせてもらいました。

中森さんは『キャンティ』『イ・ピゼッリ』などを経て、3年間のイタリア修業の後、98年、35歳で開業されました。開業した頃はまだ、金沢に正式なイタリア料理店が無い時代でした。

そこで働いた時に、パイオニアであることの苦労話というのをよく聞きました。まだネット社会でもなく、東京や大きな都市に比べれば金沢はやっぱり遅れていました。「たらこスパないの?」とか言われる、 そういう時代の話です。

けれど、中森さんがあまりに楽しそうにその時の話をされるので、なんか悔しいわけです。自分も最初はイタリアンをやりたかったのですが、それなら、これからイタリアンやっても、そのパイオニア的経験って絶対できないなって思ってしまって、「じゃあ、イタリアじゃなくていいか」となり、そこを辞めてチェコへ行くことにしました。

チェコになった理由は、今までやってきたことがホテルの洋食だったので、まずはイタリア、フランス、スペイン以外の料理にしたいなと思ったことです。メジャーどころは外そう、日本ですでに確固たる地位ができた料理は外そう、と。

その時はまだヨーロッパに行ったことがなかったのですが、文化がある国に行けば料理はあるだろうと考えました。単純にですが、文化度強いところ=世界遺産がたくさん数あるところに行こうと思い、世界遺産の数をヨーロッパの全部の国で数えてみました。一番多いのはイタリアなのですが、続いてフランス、スペインで、次がたしかドイツなのですが、ドイツは料理のイメージとか、日本にけっこう情報が入っていて、わざわざ修業に行くにはなんか違う感じがしました。

チェコ・プラハの風景
プラハの風景

その次がチェコだったわけです。チェコのことを全然知らなかったので、ドイツの次ということに「へえ〜」と思いました。国土はものすごく小さいのに、割合でいったら世界遺産がすごく多い国なのかな?それだけ文化があるのでは?と、よくよく調べていくとピルスナービール発祥の地だったり、一人あたりビール消費量世界一だったり、気になるワードがいっぱい出てきました。

それで、「いいや、行っちゃえ」ということで1年間のオープンチケットを買いました。2006年から2007年くらいのことでした。

最初、言葉も全然わからず、どうにかなるだろうと思って行ったのですが、どうにかならず、とりあえず現地の日本人を探しました。

学校を出て最初の職場で和食の手伝いはしていて、地元が金沢ということもあって、和食のスキルはゼロじゃない。そこで日本料理屋さんを探しまして「金沢から来てこんな状況で、料理はできるので使ってくれませんか」と飛び入りで行ったら、たまたまプラハのど真ん中にある日本料理屋さんが、ちょうど日本人スタッフ探しているとのこと。運良くそこに雇って頂きました。

そこから語学学校に行ったりとか、友達もできてきて、その叔父さんやお父さんとかがチェコ料理をやっているところを紹介してもらいました。ちょっとずつ言葉も覚えていきましたので、チェコの料理にも触れ、せっかく来たのでチェコ料理をたくさん覚えて帰ろうと思いました。

チェコ料理と和食店で遭遇。私のレシピの原点に。

チェコ料理については、行く前にチェコに住んでた方に聞いていたのですが、あんまりいいことは言われなかったんです。でも、とりあえず自分の目と舌で試そうと思いました。

まあ確かに、料理も素材が代わっただけで茶色いのが多く、今で言う”映(ば)える”ことはありません。けれど、初めて現地で食べた時、塩味がつよいとは思いましたが、この味は「美味しいな、日本人に合うな」とは感じました。

それなりに料理とかしてきている自分でも、ぜんぜん知らない料理ばかりで、これは面白いな!これも面白いな!ということはたくさんありました。

面白いなと思ったものほど、自分の記憶にも残ってます。今の店ではそういうものを出すことが多いです。

ただ、記憶にあって面白いと思っても、現地にしかないチーズを使った料理とか、実際出せない料理もあります。

日本の話になりますが、まだ日本ではチェコからの専門輸入業者が限られているので食材は手に入りにくいです。あってもチェコ東部のモラヴィア・ワイン、チェコビール、数種のお菓子類です。ミートローフだけ缶詰を専門にやってるところなどはあります。蒸留酒の扱いはまったくありません。
過日、大阪にチェコの特別総領事館ができ、大使館のパーティーに伺った時に、このような情報はすべて公開されていました。

日本では手に入らないスモモのハーブリキュール

また、国内でチェコ料理と打ち出しているのは5軒くらいだと思います。そのうち「チェコ料理」専門というのは、自分の店とあと2軒くらいかと思います。他は東ヨーロッパ、中東ヨーロッパあたりの料理を含めたものやパブ的な店で、それほどチェコ料理の店は少ないということです。

私は和食屋さんで働いていたのですが、初めてのチェコ料理はそこで覚えました。

その店にも現地のシェフがいて、いろんな経歴のある料理人でしたので、寿司に興味があるということで、教えてあげるから逆にチェコの料理を教えてよ、といった具合でした。

他には、先に書いたように、知り合いの親戚のお店に連れて行ってもらい、作り方を実際に見せてもらって覚えたりしました。初めは言葉が全くわからなかったのですが、向こうも英語も話せずチェコ語なので、とりあえず「見ろ」ということで。

レシピを紙に書いてもらってもチェコ語でわからないので、自分でメモをとりました。もちろん料理はやっていたので、ある程度見ればわかる部分もありました。

材料については、わからなければ舐めてみるとか、自分でなんとかしろという感じでした。

それが一番最初に覚えた料理というか、今の店のレシピの原点になったと言えるかもしれません。

調理場の皆さんはすごく優しくて、日本人がチェコ料理を覚えたいと言って、チェコまで来ることが、向こうの人にしたら初めてで、すごく応援してくれました。

特にチェコは親日な国なので、日本人か!ってすごく良くしてくれました。

さらに、そこから紹介で、違うお店を見せてもらったりとかもしました。後半の方は、無給のインターンみたいな感じでいくつかチェコ料理のお店を転々とさせてもらいました。

レシピ・ノートとオリジナル・レシピ

その時のレシピはノートに書き留めていました。もちろん今でもとってあります。

ただ、自分で実際お店をする時になって、そのレシピを見ながら、本当にその時のレシピが正しいのかということも考えました。もしかして2軒の店に行ったけれど、どちらも同じようなレシピでチェコのスタンダードじゃないかもしれないとかいう気持ちはありました。

これがイタリア料理とかだったら、情報もたくさんあって自信持って出せるのですが、チェコ料理というのは日本人にとってほぼ知らないジャンルです。チェコで買ってきた本とかレシピとかも参考にしながら、あの時に勉強して書き留めたレシピと照らし合わせてじゃないと、そのままというわけには行きません。

もとになる正確な情報が少なすぎるというか、これでは自分のオリジナルは入れられない。

自分がチェコ人ならオリジナルを入れてもいいと思うのですが、日本人なので、まだ自分のオリジナルを入れる分野ではない気がしています。なるべくスタンダードなものをと考えています。チェコ料理が一般的でない分、自分のところでオリジナルを出し始めると、それが正式なチェコ料理と思われてしまうかもしれません。
とは言いながらも最近はこちらの材料も使ってるので、その時点でオリジナルになってはいるのかもしれません。

ただ、味とかは香辛料とかがベースになるので、毎年チェコに行って買ってきます。

日本で購入したものとはだいぶ違ったりします。クミンとか、パプリカは香りがぜんぜん違います。特にクミンは中央ヨーロッパで作られていますが、向こうのはミントっぽい爽やかな香りがします。

ボヘミアとモラヴィア、そしてブルガリアのピクルス。

金沢レストランドゥブの店内で料理する柏オーナー
塩と水だけでつくるピクルス

チェコの中でもエリア的な違いはあります。場所が変わると料理も全然違ったりします。

大きく分けて西部・中部のプラハを中心としたボヘミアと東部のモラヴィアという大きな違いがあって、関東と関西みたいなものですが、その二つはちょっと料理が違います。

チェコとスロヴァキアも昔は同じ国でしたけど、スロヴァキアへ行くと違いますし、ボヘミアとモラヴィアよりさらに違います。当たり前っていえば当たり前ですが。

個人的にはスロヴァキアの味はあまり好みではありませんでした。田舎っぽくて、なんか全然違うんですけれど、イメージ的にドイツ料理と似ています。一口めは美味しいんですけど、それだけを食べ続けるとなるとどうかと。

チェコの料理はキャベツ、豚肉、みたいに別になっていて自分の食べ方で味の感じが変わってきます。逃がすところがあるというか、ムラを作れる。

ドイツとかスロヴァキアの料理は、全部一緒くたになってるものが多いと思います。どこまでも同じ味なんで、量がただ多いだけで出てくると、日本人には辛い、逃げ道がないという感じになります。

自分の提供する料理はボヘミアとモラヴィア両方の地域をミックスするようにしてます。

チェコでメジャーな料理をいくつか出して、ローカルな料理は黒板に書いたりしてますが、そもそも一番メジャーな料理すら日本に伝わっていないので、やりようが難しいです。

大使館で働いていた頃、普段の仕事では和食とか作りますけど、現地人スタッフも大勢いるので、特にブルガリアでは、手伝ってくれた現地のプロの料理人にいろいろ教えてもらいました。実は、チェコ料理とはいえ、今の店で出しているピクルスはブルガリアで覚えたレシピを使ってます。

理由として、チェコで売ってたピクルスの多くはブルガリア人が作っていたということもあります。日本でいうところの昔の富山の薬売りじゃないですけど、中央ヨーロッパのピクルス屋さんってだいたいブルガリア人なんです。乳酸発酵が得意な人たちで、ピクルスとヨーグルトはここらへんの人が上手に作るので長く残ってきたわけです。

実際、ブルガリアで教えてもらった作り方でつくったピクルスは美味しいですし、ヨーロッパぽい味になって、チェコとかでも美味しいピクルスの味がします。

ですから、この店のピクルスは酢漬けじゃなくて、お酢もちょっと使うんですけど、乳酸発酵させています。そういう作り方しているお店は少ないと思います。

自分もブルガリアに行くまではピクルスって酢漬けだと思っていたのですが、実際行くと、水と塩からだけでつくるものもあります。ただ、塩味は強かったりしますが。

乳酸菌は野菜にもともとついてるものなので、無農薬の野菜じゃないと上手に発酵しません。農薬を使っている野菜ではあまりうまくできないです。向こうでもそう言われていて、市場とかに行ってそういう野菜を調達します。

ただ、ガチガチに塩と水とスパイスで作る場合、それに物によっては乾燥したとうもろこしを入れたり、ビーツを入れたり、他にも「これ入れた方がいいよ」というものもあります。それを本気で発酵させるのでクッさくてこの小さな店では作るのは無理です。

冷蔵庫は使わず、常温で作るので金沢でも夏は無理かなあという感じです。よっぽど地下室でもあれば、夏でもしたいなと思います。

チェコの気候は北海道くらいです。乾燥はしてて、ヨーロッパの中では内陸で、こっちよりは気温も低いです。と言っても、最近は暑いときは40℃とかになることもありますし、最低気温は今までマックスだとマイナス20℃くらいとかでしょうか。

難関は料理名のチェコ語カタカナ表記

レシピ・ノートは、各国ごとにあるので相当な冊数になります。

まとめてはいないのですが、その国の想い出みたいな感じです。レシピが書かれたノートを見て、「あ~、あの時教えてもらったやつかぁ」とか「あの時教えてもらった人とちょっとケンカしてたなぁ」とか、自分にとっては場面を思い出す日記のようなものかもしれません。

これまでのレシピを公開することに全く問題はありません。頼まれて、何度か料理教室みたいなことをしたこともあります。

ただ、料理やレシピを公開して作り方まで教えると、結局、すごい時間かかるので、ほとんどの方が「食べに行きます」ということになります。チェコの料理はすごい手がかかります。


いちばんの手間は煮込み料理でしょう。例えば煮込みのベースで、まず玉ねぎだけ1時間炒めるとか。それから肉を入れて、圧力鍋とか使えば違いますが、普通にやろうとしたら4時間とか5時間とかかかります。さらに茹でてパンをつくって料理にあわせたりと。

チェコ料理はどうしても、無いものをゼロから作る工程がでてきてしまいます。日本だと時短できるものがあったりしますが、チェコのものは売ってないので、なかなか時短できるアイテムが見つかりません。

OPENSAUCEのレシピサイトでチェコ料理を公開するとなると料理名をカタカナで書くことになりますが、実はチェコ語はカタカナで発音するのは、なかなか難しいのです。有名な料理の名前を言ってもメジャーじゃないからわからないことが多いと思います。

例えば「牛肉の煮込み」。ふだん自分のところで、そういうふうに出しているんですけど、チェコ語のメニュー名だと、「ホベジー・グラーシュ」となります。

「グラーシュ」という料理は煮込み料理なのですけど、パプリカを使ったりある程度の法則があります。使ってる香辛料が何種類か入ってないと「グラーシュ」とは言うのは変じゃない?みたいな感じです。

辛味は唐辛子なしの生玉ねぎと生にんにくで。

チェコ料理初心者に一品を勧めるとすると、現地でいちばんメジャーな、前述の「ホベジー・グラーシュ」かと思います。パプリカとクミン、マジジョラムという香辛料を使って、あと生のニンニク、玉ねぎを黒くなるまで炒めて、それがベースになります。

ホベジー・グラーシュと茹でパン

チェコというか、中央~東ヨーロッパ行って感じたのは、、唐辛子を使うところが少ないということでした。イタリア料理なんかだとけっこう辛味に使いますけど、特に東に行くと、辛味にチリペッパーなどを使うことが少なくて、勝手な想像なのですが、それはたぶん寒いからなのだと思います。

唐辛子そのものやチリペッパーは食べると体を冷やすので、基本的にはアフリカなどの暑いところではよく食べますけど、寒いほうでは唐辛子を食べるというよりも、服や靴に忍ばせたりします。

辛味とかの刺激って料理に入っていたらひとつのアクセントになります。でも、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパでよく見たのは、生の玉ねぎ、生のニンニクを料理の仕上げに入れて、生玉ねぎの辛さとか、生ニンニクの辛味を上手に使ってるところが多いですね。

揚げパンにも嫌という程ニンニクをすりつける

刺激は強いですし、量とかで調整できますが、一番の問題は匂いです。向こうでは皆さんそれを食べてますし、食文化としてあるのですが、日本で出す場合は匂いが問題になりますね。最近ではチェコ人の方も他の国のゲストが来たときは、ニンニクの匂いは気にしてたりします。けっこう上のおじさんとかは匂いは普通、という感じですが。

合わせ縛りが厳しい?チェコ料理

背表紙ではわからないチェコ語の料理本と素材を書いたメニュー

もう一つチェコ料理初心者にお勧めするとしたら、「ベプショ・ゼロ・クネーグロ」。予約が入ったら料理することがあります。チェコ版のローストポークというか、簡単に日本で言うと肉じゃがみたいなもので、「肉」「じゃが」と単語が並んでるだけです。

「ベプショ」が豚肉。「ゼロ」がキャベツ。「クネーグロ」茹でて作った。

で、「ベプショ・ゼロ・クネーグロ」。これはそこまでスパイスは使いません。キャベツに少しクミン使うくらいで、肉は少し塩とニンニクで、あとは肉と野菜から取ったソースをかけて食べます。ソースはシンプルですけど、鴨とかでもそういうのはありますが、豚からはあまりソース取らないので面白いと思います。

1年いたのでわかりますが、チェコ人の中では、この料理にはこの組み合わせというのがあります。これには「クネドリーキ」という茹でたパンを添える、この料理にはボイルしたお米を添える、こっちの料理にはサラダ、この料理にはボイルしたジャガイモとか、当たり前の組み合わせがあったりするんです。

チェコのレストランに行くと、メニューに別々にあって自分で組み合わせを作るっていうのがあるのですが、適当に言うと「いや、それは違う違う」みたいな感じでウエイターさんが正解を言うまでなかなか通してくれません。旧いお店とか行くとけっこうそれが多いようです。ただ、チェコでも地方によって違っていて、この料理にはお米合わせる人はあの地方の人だな、とかいうのもあるので。

ちなみにお米はそんなにたくさんは食べません。どちらかというとパン、ジャガイモです。チェコは内陸なので魚は全然ないですね。

金沢とプラハの共時性!?食の世界的流れ

金沢とチェコの似ているところは、城下町で酒どころだというあたりでしょうか。向こうに言ってみて、自分が勝手にチェコとシンクロしたのは、金沢出身だからだと思うのですが、日本国内で「石川県出身です」と言っても響かないけれど、「金沢出身」というと、ああ、とわかってもらえる感じです。「チェコ」に住んでいると言ってもピンとこないけど「プラハ」と言うとわかってもらえる、という。そこ似てるな、というのはあります。

料理で金沢と近いものといえば「治部煮」でしょうか。

ドロっとしたあんかけみたいなものなので、チェコ料理は治部煮には仕上げられるなあと思います。他には、農家から直接仕入れたこちらの野菜を前述の方法で乳酸発酵させてピクルスにしたりもしますが、やはり土が違うので野菜の味も違います。料理によって調整しますが、当然、出来上がる料理の味も違ってきます。

肉でいうと「ホベジー・グラーシュ」なんかは、最近、和牛で作ってるんですけど、実は向こうよりこっちの方が美味しいです。

逆に、向こうの牛肉って煮込まないと食べられないんです。全身牛すじみたいな感じの固い肉なので、そういう煮込み料理ができたということもあると思います。

店としては、ベーシックなレシピを守りながら塩とか油は日本人に合わせています。自分が最初に体験したチェコ料理のように、旧いレストランやおじいちゃん、おばあちゃんに教えてもらった料理はけっこう塩が強いのですが、世界的な流れで、現地でも塩と油が控えめになってきています。そちらの方が日本人に合うと思うので、控えめな味にするようにはしています。

クリスマスの「鯉」と家庭の料理

豚の調理本

チェコには国民食といわれるたくさんのソーセージがあります。代表的なのが日本でいう粗挽きソーセージみたいなもので屋台など売っている「クロヴァーサー」です。これは買って帰って、家庭で煮込んだりもします。
チェコの謝肉祭「マソプスト」はチェコの宗教的な複雑さから宗教性が薄れた「肉に感謝する日」へ変貌し、民族が結集するお祭りとなっています。パレードの後に豚一頭をシメて家族みんなでソーセージなどの保存食に加工して、ついでにお祓いするというのが大イベントで最大のご馳走です。

海がないチェコの料理では川魚が多く種類は少ないのですが、クリスマスにはチェコ全土で鯉を食べます。

チェコ料理レシピ本の表紙

つまり、クリスマスのディナーは七面鳥ではなく「鯉」なのです。

昔だと、12月の20日過ぎたら、各トラムとかバス停の前に子ども用のプールみたいなの持ってきて、鯉を活きたままワラワラっと入れてあるのを買って帰ります。泥抜きをしないといけないので、昔の家とかだとバスタブに水を張って、何日か鯉を入れておきます。だからチェコ人はしばらくお風呂入れない、ということになります。いまはさすがに捌いて売るのが一般的です。

調理法は「鯉のフライ」です。

うちの店でも12月にはそれ出してます。鯉のフライ「スマゼニィ カプル」とポテトサラダ「ブランボロビィ サラータ」。それと、鯉の内蔵のスープですね。

チェコではテイクアウト専門とかお惣菜を買うというよりは、レストランで持って帰ることが多いと思います。日本では今、食品衛生が厳しいですから持ち帰りは少なくなりましたが、普通に食事して、量が多かったら持って帰るというのを向こうでは普通によくやります。

チェコは”家庭料理が質素、料理が上手ではない”と言われることがあります。チェコは元共産圏でけっこう共働きが多いので、いちど無理やり文化的にやられたのもあるので、そういう理由もあります。

ただ、リタイアしたおばあちゃんとかは結構、料理上手な人も多かったりします。チェコでは、よく美味しい料理を作る人は、日本ではおふくろの味とか言うのを「ばあちゃんの味」という表現をするのですが、その国の背景を物語っていますね。

金沢・チェコ料理「DUB」 店主 柏照康氏(談)

編集部
お話を聞きに伺った時、店主に女の子が誕生しました。
将来、家庭で柏氏のレシピでチェコ料理をだすことになるかもしれません。レシピが国境や時間を超えて繋いでいるのは味だけではありませんね。