2023.06.20

食堂車は復活できるのか?
【私の食のオススメ本】

  • 書名:食堂車は復活できるのか?
  • 著者:堀内重人
  • 発行所:アルファベータブックス
  • 発行年:2023年

本書はコロナ禍が収束に向かい、インバウンドが増え、国内旅行も活性してきた昨今、読むべきデータとして挙げておきたい一冊であり。データとして永久保存版にしたい一冊だ。

つまり、食堂車があちこちで復活したら、目的地での「食ビジネス」にどう影響するかとか、店舗型でない飲食ブランドも考えることになるのだろうということだ(個人的にはインドあたりの長距離列車のチャイや弁当売りのほうが興味があるのだが)。

豪華列車や観光列車の旅はしたことがないので、最後に食堂車入ったのがいつか忘れてしまった。東海道・山陽新幹線で食堂車の食堂車が廃止されたのは2003年の3月。大阪によく行っていたのはバブルの頃だったが、当時は指定席も自由席も座れなくて食堂車で食べ続けることがあったので、それが最後かもしれない。

席で食べるアイスクリームと冷凍みかんが楽しみだった子供の頃は、食堂車に連れて行ってもらい、ソースとご飯が別のカレーライスを食べるのは至上の喜びだった。

現在は観光列車以外で食堂車が連結された電車は存在しない。クルーズトレインを除けば「サフィール踊り子」「TOHOKU EMOTION」、西武鉄道「52席の至福」くらいだという。

本書は運輸評論家の堀内重人によって集められた「食堂車」の変遷と分析である。さらに食堂車を活性化させる試み、復活させるべき領域、これからの食堂車の在り方が提言されている。

「永久保存版にしたい一冊」と書いたが、面白いかと問われたら鉄オタでない自分としては「そういう本ではない」というしかない。「たぶん、タモリ氏に贈れば喜ばれる」本であるとは思う。

なにせ、まず、何系統の何型の電車であるか、技術的特徴、エンジンの形、オリエント急行などとの比較が事細かくびっしり記載されている。鉄オタ本としても秀逸なのだろう。データはほぼすべての食堂車の導入の歴史、内装から排水、厨房の火力にまで及ぶ。

350ページほどの分厚い書籍だが文字が6割、写真が4割。もちろん、セットメニューについても、その変遷も含め写真付きで解説されている。博覧強記、恐るべしだ。

1968年の電車急行ビュッフェメニューには、洋朝食200円、ランチ250円、うなぎご飯300円、カレーライス、チキンライス、カツ丼、天丼は180円、ハンバーグステーキは240円、もりかけ蕎麦が60円、ビールの大瓶が170円、(面白いことに黒ビールもあり)ギネスなどは110円である。冷凍技術が進む前だったので、普通に作っていたのだろう。調べたら、大卒初任給が3万円(現在の14万程度)のころ。まだ、外食が特別の時代だった。

1988年運転開始の寝台特急『北斗星』ではフレンチのフルコースが7800円で提供された。肉と魚のコースの他に『ビーフシチュー』と『海峡御膳』という和定食5500円も用意された。通路の両側に4人掛けテーブルでは皿が乗らなくなり、2人掛けと4人掛けというレイアウトに変更された。

こういう内容を読んでいると、日本の経済や日本人の行動、食の変遷も読み取れて面白い。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。