- 書名:南インド キッチンの旅
- 著者:斎藤名穂
- 発行所:ブルーシープ株式会社
- 発行年:2018年第1刷 2020年第2刷
著者、斎藤名穂は建築家でありデザイナーだ。都内の展示会で南インドの出版社「タラブックス」のギータ氏と出会い、チェンナイにあるタラブックスに3ヶ月滞在し生まれたのが、<キッチンにまつわる体験を本にしていく>というアイデアを形にしたこの本だ。
著者は旅をする時、カメラとスケッチブックと鉛筆、巻尺をもって出かける。それらの道具で記録したものが、タラブックス流の美しいデザインで落とし込まれている。それも本人が語るように「正直に、胸がざわっとすることに出会った時に包み隠さず」に。
非常に個人的だが残念なのは、右開きで本文が縦書きでカタカナの多い文体に合っていないのではないかと感じたことだ。レシピページが横書きで、それとの区別だったのかもしれない。しかし、しっかりした装丁なのでうれしい。
訪れたキッチンの文章の後にそれぞれレシピがあり、写真やメモを見ながら、あー、ここでこの料理が出来上がっていくんだなと旅に同伴しているようだ。
そのレシピは、「なすと豆のクートゥ(シチュー)」「ピーナッツチャトニー(ソース)」「ゴーヤのスパイシーコロンブ(カレー)」「ドラムスティックサンバル(シチュー)」「プットゥ(米粉とココナッツの蒸物)」「ヴァンジャラム(魚のフライ)」「グヤーシュ(トマトと豆のシチュー)」‥
「ラギプットゥ(しこくびえの蒸し菓子)」「カルカル(揚げ菓子)」「ワダ(豆のパテの揚げ物)」「チャイ(インド風ミルクティ)」「タマリンドのコロンブ(シチュー)」「エビカレー」「サッカライポンガル(米と豆の甘い粥)」「ポディ(スパイスミックス)」「クリパニャム(焼き団子)…
南インドはスパイスのメッカなのだと再認識するレシピだ。この本の中で、これらの料理名の前には、訪れたキッチンの主人たちや中心人物たちの名前が記されている。そしてキッチンはその家庭や住まいのどこに在っても、中心なのだ。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。