2021.05.06

ジョブズの料理人【私の食のオススメ本】

  • 書名:ジョブズの料理人
  • 編者:日経BP社出版局編 序文:外村 仁
  • 発行所:日経BP社
  • 発行年:2013年

板前がカウンターの向こう側から眺める風景はどんな感じなのだろうか?それも世界を動かす起業家たちが目の前に座るのだ。2011年に閉店となったアメリカ西海岸、シリコンバレーの和食店「桂月(けいげつ)」の店主で寿司職人の佐久間俊雄さんの語りから見るシリコンバレーの26年。

トシさんは「桂月」以前、ソフトシェルクラブの素揚げを巻いたソフトシェルクラブ・ロールやピリ辛マグロを巻いたスパイシーツナ・ロールまでは出したがファンシーロールと呼ばれるアメリカ的な寿司をだすことはしなかった。伝統的な寿司をだすポリシーにこだわった。そしてシリコンバレー初の会席料理店となった「桂月」を開いた。

「桂月」の以前の店ではジョブスがスティーブ・ウォズニアックを伴って現れた。その次の店でもテイクアウトの電話をしてきた。ジョブズがアップルを追われ復帰した頃。Kindleの開発者グレッグ・ザーもやってきた。「桂月」ができてアップルのデザインを支えたジョナサン・アイブはジョブスとしばしば訪れた。

こんな風にトシさんの前には、シリコンバレーで世界を牽引する企業人が座った。「桂月」の常連のメーリングリストは2000を超えていた。

アップル創業者、スティーブ・ジョブズの注文はいつも同じ「トロ5つ、ハマチ5つ」。

序文に、アップル社で市場開発やマーケティング本部長職などを歴任し、シリコンバレー日本人起業家ネットワーク(SVJEN)の初代代表でもある外村仁(ホカムラヒトシ)氏はこう書いている。

「この本を読まれる方々に小さなお願いがあります。我々の祖先が長い時間をかけて培ってきた食の文化とその背景にある思想をどうか当たり前のものとせずに、その普遍的価値や、それが潜在的に持つ力を再認識する(ジョブズ的にいうと再定義ですね)きっかけになるように、このトシさん(編集部注:佐久間俊雄さん)の回顧録を味わっていただければと思います・・」

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。