2026.03.03

コーヒーの絵本 【私の食のオススメ本】

  • 書名:コーヒーの絵本 
    THE ILLUSRATED BOOK ABOUT COFFEE
  • 著者:作・庄野雄治 絵・平澤まりこ
  • 発行所:mill books
  • 発行年:2014年 第1刷 2016年第7刷

何十年もかけて書籍を含めてコーヒー界隈を放浪している(極めようとしているわけではない)者として、ちょっと原点に戻ってみよう、という気持ちになる、ホント、「世界でいちばんやさしいコーヒーの絵本」なのである。

この絵本とは逆に深掘りの極地みたいな人たちの、コーヒーにまつわる書籍をRIFFでもいくつか紹介しているので覗いてほしい。紹介と言っても概要がわかるようなものではなく、取留めのない話だが。
「大坊珈琲店」 https://riff.opensauce.co/daibou-coffee-review/
book-review/
「コーヒー おいしさの方程式」https://riff.opensauce.co/delicious-coffee-equation-book-review/
 コーヒー「こつ」の科学 https://riff.opensauce.co/coffee-technique-science-book-review/
「コーヒーの人」https://riff.opensauce.co/coffee-people-book-review/
 金沢 「古民家カフェ日和」https://riff.opensauce.co/kanazawa-old-folk-house-cafe-book-review/
「東京カフェを旅する」https://riff.opensauce.co/tokyo-cafe-journey-

まあ、この辺の書籍を含めてかなり深いところまでぐるぐるしていて出会った絵本がこれだったわけで、多種多様な情報とあちこちで拾ってきた専門的知識でカタくなっていた頭を、リセットしてくれたのだ。

私感ではあるけど、コーヒーというものに少しハマると、人はあまり良くない方向に行くような気がする。プロのように淹れたくなるのである。

プロのように淹れる必要があるんか?所詮、”プロのように”なのでプロにはならない。その前にプロの定義をしてないけどね。まあ、定義するなら<自分のコーヒーに対する思いと考えがあって店で人のためにコーヒーが淹れられる人>というあたりかな。

YouTubeでコーヒーの淹れ方、豆、ロースター、器具の情報を漁っていると、恐ろしいほどのコンテンツや人物が溢れている。結局は気の合いそうな話し方をする、「こういう考え方もあるよ」と方法を決めつけない焙煎士やバリスタなんかのユーチューバーを選んで参考にすることが多い。

そんな感じで、沼っていくと自分のその時の体調や味覚の声を聞かず、推しが言ったので”これを美味しいと思わなければいけない”的なところまで行ったりするので困ったものだ。

または、「いやいやそんなに細かいことをやっても大して違わないよ」とか、焙煎や淹れ方も、器具の違いも、豆の出自も、まったく無視発言してコーヒーの立場を貶める者も出てくる。

しかしこの絵本に書いてあるのがすべてなのである。読み終わるとびっくりするほどコーヒーの基本が頭に残るのである。

いつも行く喫茶店の情景では「ゆっくりゆっくりお湯が注がれる。すると、こうばしい香りに包まれて、それだけで幸せな気分になる。コーヒーっていいな。」

お話しを書いた庄野雄治はコーヒー焙煎人だ。徳島市で自家焙煎のコーヒー豆専門店「aalto coffe」を営む。絵本の文章の始めの方で「インスタントだってかまわない。でも、お店みたいな味がいれられたら、コーヒーの時間がもっと楽しくなる。」とぼくらをコーヒーの入り口へ戻してくれる。

そう、プロみたいではなく「お店みたいな」なのである。自分お好きな「お店みたい」を見つけられたら良いのだ。

絵を担当した平澤まりこが、あるインタビューで、庄野雄治は<かつては国民的な人気を誇っていたプロレスが、一時期下火となったのは「一握りのコアなファンのものになってしまったからだ>と言っていると話しているのを読んだ。

だから、「コーヒーの世界はそうならないで、マニアだけでなく、初心者も自由にコーヒーを楽しんでほしい」という思いが、この本には詰まっているという。

実際、絵本ではあるのに、コーヒー豆の産地や種類のこと、焙煎によって味わいの違うこと、ペーパードリップで淹れるために必要な器具や淹れ方の基本とコツ、自分らしいコーヒーの楽しみ方、それらが<こーひーってなに?> <コーヒーをいれてみよう> <コーヒーは自由に楽しもう>というセクションごとで、やさしく解説がなされている。コーヒーのすべてを絵本という形で語りかける「入門書」。

二人は編集者をいれて「難しい専門用語はなるべく使わず、直感的に理解できるように試行錯誤」したらしい。具体的な数字が書かれているのは<1杯180mlあたり豆14gが目安。2杯目からは1杯増えるごとに豆を10gずつ足していく>というところだけ。他にはいっさい出てこない。これにしたって目安なのだ。あとはやってみて探し出して、という。

「コーヒー豆っていうけれど、本当は豆ではなくコーヒーの木になる果実の種なんだ」

たしかに、コーヒーにハマった人なら、なんで今更そんな話を読まなきゃいけないんだ?って思うかも知れないけど、読み進むと、1ページ1ページ、あーそうだった、てなるんじゃないかな。

そのぐらい、庄野雄治のお話しと平澤まりこの絵は、解説なんだけど「絵本」なのだ。自分のために、家族や友人や恋人のためにコーヒーを淹れたくなるのである。

1杯のコーヒーができるまで というページではコーヒーの実をつむところから、乾かして世界中に送られ、焙煎され、ミルで粉にされ、好きな方法で淹れられ、お気に入りのカップで楽しむまで描かれる。

最後の文は、焙煎士の思いが滲んでいる。
「こんなに手間がかかる飲みものは、そうはない。それなのに、これだけ愛されているということは、すばらしい魅力があるからなんだ、きっと」

コーヒー豆の栽培や物流には様々な課題や問題が残されてはいるが、世界のいろいろな場所でいろいろな形で愛されているのは確かだ。だからこそ、自分はどんな時、どんなコーヒーを飲みたいのか、この絵本を時折り読みながら、初心に戻って考えたいのだ。

平澤まりこは、この絵本のシリーズとしてABOUT TEAやABOUT CHEESEという本も手掛けている。もちろん文章はそれぞれの専門家が書いている。表紙にあえて日本語表記を洋書テイストにしたのは、本屋に並んでいることよりも、部屋においた時を考えてのことだろう。このシリーズは「平澤まりこの」と言ってもいいかも知れない。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。